花の国の新たな様子

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「ああ、でも……ライナー様がお着換えもお風呂もお一人でなさると知ったときは最初は少し戸惑いました。……考えてみればその日からもうすぐ一年になるんですねえ……」  感慨深く呟く侍女の言葉にジゼルは目を丸くした。初耳だ。  隣の帝国はとても大きく豊かなので、貴族や王族たちの召使も多いと聞く。おかげで着替えなどの身の回りのことはもちろんのこと、窓を開けたり、机の本を端へよけるといった程度ですら間近に控える召使たちがしてくれるそうだ。 「ライナーは帝国貴族出身のはずなのに、意外ね」  これはずいぶん大きな内容だと思う。なのに今まで誰も教えてくれなかったのは、もしかすると「男性の裸」という繊細な内容が絡むせいで王女への話題としては遠慮する人が多かったからかもしれない。この侍女も花茶に気を取られていなければ教えようとは思わなかっただろう。 「そうですね。私たちも最初はきちんとお世話できるかどうか緊張していたんですけど……おかげさまで今はとっても気楽にさせていただけてます」  きっとこれもライナーが『竜の子』だったせいだろうな、とジゼルは思う。  ライナーを冷遇する彼の名目上の父は、十分な数の召使たちをつけてくれなかったのだ。だからライナーは自分のことは自分で出来るようになったに違いない。 「教えてくれてありがとう」 「いいえ」  再び花茶とにらめっこを始めた侍女は上の空で返事をする。これ以上は話を聞きだせないと判断したジゼルは侍女の邪魔にならないようそっと立ち去り、当初の目的通り庭園へ向かった。
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