心がある場所

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 次期国王となるジゼルは象徴の花を持たないが、今までいくつかの花に例えられてきたことはある。  カトレア、ダリア、薔薇、ピオニー。  どれも華やかで鮮やかな花だ。  ライナーの挙げる花がその中のどれかであれば良いのに、とジゼルは思った。しかしライナーは、まったく思いもよらない花の名を告げた。 「菜の花です」  ジゼルの肩に幹が当たった。足がふらついたせいで倒れそうになったのを木の幹が支えてくれたらしい。  変なの、と胸の中だけで呟いてジゼルは唇を歪める。  想像もしていなかった花の名をライナーが口にしただけなのに、どうして自分の足は急に力が入らなくなってしまったのだろう。 「……ほう。菜の花か……」  五つ呼吸をするだけの間をおいて、ピエールの声がする。 「またずいぶんと意外な花を選んだね」 「そうですか? 僕はすごくぴったりだと思ったんですけど……駄目でしたか?」 「駄目なんてことはないよ。ただ、少し驚いたかな。……うーん……菜の花……。菜の花か……。私には今一つ分からないけれど、竜の子には分かるところがあるんだろうなあ。……そうか、菜の花……」 「あの、義父様(とうさま)。もしかして面白がっていません?」 「まさか。私は単純に感じ入ってるんだよ」 「……僕はこのところ、義父様の嘘が少し分かるようになってきました」 「おやおや。子どもは成長が早いね。――いや、好きな相手がいるくらいだからこの程度の成長は当然だよな、うん」 「やっぱり面白がってるではありませんか……」  これ以上二人の話を聞くのは止めよう。そもそも立ち聞きは失礼なのだから。  両手で耳をふさいだジゼルは来たときとは別の道へ向かい、急いで庭園を出る。そのまま小走りに王宮の裏手へ回り、人気(ひとけ)のない木陰で座り込んだ。
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