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嘆きの冬
「お父様、ご気分はいかが?」
「……ああ、ジゼル……」
ベッドに横たわったピエールが目を開け、痩せた顔に笑みを乗せる。
庭園で菜の花の話を聞いてから約五か月後のある秋の日、ピエールは急な病に倒れた。それから三か月近く経っても容体は一向に回復しない。
季節が悪い、とジゼルは思っていた。何しろ今は冬のただ中だ。石で出来たこの城は古く、壁をタペストリーで覆ってもどこからか隙間風が入ってきて部屋の気温を下げる。これまでも父は冬になると体調を崩すことが多かったし、今だって不調が続いているのはきっと寒さのせいだ。
(早く暖かくなってくれたらいいのに。そうしたらお父様だって良くなるわ)
カーテンの向こうで風がカタカタと窓を揺らす音を聞きながら、ジゼルはベッドの横に椅子を持ってきて座る。
「お休み中にごめんなさい。あのね、私の婚約者の候補となる方を決めたの。お父様がこの方をどう思うか、伺ってもいい?」
ピエールが微笑んだまま黙っているので、ジゼルは片手に持っていた書面を父に向かって示す。
「ほら、何年か前にうちの蜂蜜酒を買い始めた国があったでしょう? あの国の第三王子なの。あちらもうちとの繋がりをもう少し強固にしておきたいと思っていたみたいでね。内々にだけど話を持ち込んでみたら、好感触だったわ」
「……そうか」
「お父様のご裁可をいただけたら本格的に話を詰めようと思うのだけど、いかが?」
「お前がその王子を良いと思うのなら、このまま話を進めなさい」
「……それだけ? これでも私、どの方にしようかってすごく悩んだのよ」
「悩んだ末にお前が出した答えならば、私は反対しないよ」
捉えどころのない父の答えを聞き、ジゼルはため息と一緒に「もう」と不満の声を漏らす。
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