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男達が目覚めるのを待っていようと思ったお至であったが、打倒白仙教が果たされ男達が戻って来ることを姉達に早く伝えたくて村へと戻ることにする。
お至が走って村へ戻ると、姉をはじめとした女達はいなくなった亀代を必死に探している所だった。
「お至! あんた、また食い物を盗みにきたのかい?!」
妹の存在に気がついたお途がきつい口調で言い放つが、今日のお至は姉に反発などしない。キラキラとした目で、興奮気味に真実を捲し立てる。
「途姉ちゃん、それに皆も聞いて! 白仙教がなくなった、だから男達が戻ってくる! ハクセン達はヒトアラズだったんだ、不老不死の霊薬ってのも嘘っぱちだったのさ!」
一気に喋り、はぁはぁと肩で息をするお至を村の女達はぽかんと見つめていたが、その表情は段々と険しくなっていく……。
「男達が戻ってくるって……そんな今更、」
誰かが溢したそれを皮切りに次々と不満の声が上がる。
「い、嫌よ! 白仙教が治める村には男がいないっていうから必死にここまで逃げて来たのよ?! それなのに……いやっ、怖い!!」
「折角女達だけでもやっていけるって分かったのに、折角女達だけ楽しくやっていたのに……」
「あぁ、うちの暴力亭主も戻ってくるんだろうか? ……死んでくれていたらいいのに」
自分の思い描いていた反応が返ってこずお至は困惑した。するとそんな妹に姉は静かに言い聞かせる。
「お至、白仙教や不老不死が嘘っぱちなんてこと皆分かってたんだよ。だけどね、あまりにも今の生活がいいから気がつかないフリをしていただけなのさ」
「……う、そ、」
「嘘なもんか。……不老不死の霊薬、あの材料だって皆勘づいてるよ」
お至は信じていたものに裏切られ、足元が崩れるような感覚に陥る。
「白仙教がなくなったなんてデタラメだよね? ハクセン様や三竦さまはあたしたちを見捨てないでしょう?」
小さな女の子に袖を引かれ、お至は項垂れる。
「お至、あんたが今まで盗んでいた食い物だって白仙教があってのことさ。それに、あれだけハクセン様達に楯突いてたあんたが無事だったのは三竦さまの思召しだよ」
姉の言葉に、お至は震える声で返す。
「そんならあたしは……どうすればよかったのさ?」
「そりゃあ──」
お途は遠くの山の上に見える白く荘厳な寺を眺めて、
「ハクセン様の従順な傀儡を続けていればよかったのさ」
そう呟いた。
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