20人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「あの……収穫の時期は過ぎちゃいましたよね」
こなつが再び訪ねてきたのは、二週間ほど経った頃だった。
「まだ、いくらかありますよ」
畑には、こなつの収穫を免れた小さな実が育って、次の収穫を待っている。
こなつが収穫してしまったまだ熟れきっていないなかったスイカは、地元の動物園に寄付することになった。
甘味はいまいちだとは思うが、動物たちには大好評だったとお礼の手紙をいただいた。
もちろん、こなつのやらかした分はちゃんと弁償してもらった。
「また、お手伝いさせてもらえませんか? 住むところをさがしているんです。外聞が悪ければ結婚という形でもいいと思うんですけれど」
なんだか、めちゃくちゃなことを言っている。
「いや、あのさ。ままごとじゃないんだよ。結婚するって――」
「一緒のお墓に入るんですよね?」
死ぬまで一緒って、そんな究極の愛を持ち出されても……。
「と、飛んだなあ。ちょっと飛躍しすぎたかなぁ」
「じゃあ、性交とかですか?」
今度はすごいストレートなのが来た。
ここ玄関先なんだけど。
「こなつさんさ、時々すごい赤裸々な発言をするよね――ええと、それで、追い出したのに、自らここに戻って来てたのは、俺に好意があるからとみなしてもいいんでしょうかね?」
そうじゃなかったら困る。もうこれ以上は紳士的なふるまいは望まないで欲しい。
「ええ、それはもう。あとはそちらの気持ち次第なんですけど。今現在から交際スタートということでお願いできますでしょうか?」
スーツ姿のこなつは、小脇に抱えた鞄から名刺でも出しそうな勢いだ。
「じゃあ、とりあえずお付き合いからってことで。この場合、性的同意も含まれますかね?」
「もちろん。それと、オフィスとして家屋の一部屋をお借りしたいのですが」
「はぁ、どうぞどうぞ。部屋はいくらでも空いているので」
では、契約書類にサインを――という流れは省略して、俺は急いて急いて、足をもつれさせて、こなつに走り寄る。
こなつを家に返してから、何をしていても空っぽになったようだった。
ぎゅっと抱きしめて、ああこれが等身大のこなつの手触りなのかと、輪郭をなぞる。
手を握るだけで、唇を味わうだけで、済むはずがなかった。
こなつを抱いて、全てを奪い尽くして、それでも収まりがつくとは思えない。
この欲を満たすには――
「永く一緒にいるしかないな……」
「え、あ、は、はい! 結婚してください!」
スーツケースをごそごそして、婚姻届を取り出す。こなつの名前が既に記入してある周到ぶりだ。
「何でいきなり。お付き合いからって、言ったばかりだろ」
「だって、永くって……とりあえず深いお付き合いをお願いします」
俺はその前に、ひとこと言っておくことがあったのだ。
「こなつさんさ、一夏の恋云々で、彼氏や夫じゃない人におっぱい見せちゃうのってどうおもう?」
「駄目だったですか?」
「駄目じゃないけど、他の人にやったらイヤだからね」
「やだ、そんなことしませんってば! 私、誓って、悠馬さんにしか見せませんし、やりません!」
「じゃぁ、させて」
真夏の床はひりっとするほどに熱くて、ここで押し倒したら、こなつの背中が火傷してしまう。
仕方ないからこなつを抱えたまま自室に移動する。
肥料袋二個分くらいの重さだ。
肥料袋は俺に抱きつかないが、こなつは首に腕を絡めてくれるから少し軽く感じる。
「初めては汗の香りがするって聞きましたけど、ここに来て汗を嗅いだことはありませんでしたね」
「しょっちゅうシャワー浴びるからね」
「わ、わたしもちゃんとお風呂入ってから……」
「いいよ。そのままでいい」
俺は慌てるこなつに口付けて、一人寝でくしゃくしゃの布団に横たえる。
「大丈夫、いい匂いだから」
うちの安いシャンプーとは違う匂いがする。
もう待てなくて、白いブラウスのボタンをはずしていく。
開けてびっくり。今日はまた、煽情的な下着ですね、こなつさん。
「Dだっけ?」
フロントホックってこんなに外すのが楽しみだっただろうか。
今日は下着のディテールを描写する暇もない。興奮で息がつまりそうだ。
両手でそっとカップを開けば、白い膨らみの先に控えめな大きさの先端が現れて、ようやく息を吐いた。
「人に応えるのは苦手でさ。上手く出来なくて、がっかりさせるかもしれないけど」
思えば、前の彼女と別れたのも、彼女の求めるものを俺が提供できなかったからなんだと思う。
こなつが望むようにしてあげられるかどうかわからない。
俺にとって性交は、手探りで答えを探さなければならない難しいものだ。
「予習はしてきました」
なんの予習をしてきたのか興味はあるが、やる気があり過ぎるこなつに任せるのは危険な気がする。
「熱心だなぁ。でも、こなつさんの予習を活かすのはまた今度ね」
顔を近づけるとこなつが嬉しそうに笑う。
口付けって、こんな幸せなものだっただろうか。今までの彼女としていたのは、相手を喜ばせる為の行為だった。盛り上げて、高めてやって、満足させてやって、最初から最後まで全部俺の役目だった。
もう既に喜んでいるこなつとキスするのは心が軽い。
何だか楽しくて口の端が緩む。
舌を絡めれば、不器用そうに絡め返してくるから、負けられない。
こなつにやられるわけにはいかない。先に鳴かせてしまおう。
こなつの胸に手をやって、良さそうなところを探し始める。
「んっ……ん」
舌を絡めながらの喘ぎを聞いて、気分良く胸の先端を摘む。
「気持ちいいの?」
キュッと抓れば、切なそうに目を細める。
「はい……悠馬さんもここ感じます? ちょっと脱いでみてくださいよ」
さっき俺がしたようにボタンを外そうとしたが、もたついて、諦めて臍のほうから手を入れてきた。
俺の胸を弄るために、素肌をこなつの手が這い回る。
うわぁ……これは、ぞくぞくする。
こなつの胸ほど敏感さはないが、俺に一生懸命何か与えようとするこなつの姿勢に下腹部が重くなる。
「こなつさん、俺がしたことの再現だったら、キスもして……」
口を開いて少し舌を出せば、こなつが伸び上がって舌に吸い付いてくる。
舌先をちゅっちゅと控えめに吸われて、母性が芽生えそうだ。
嘘だ。完全に繁殖モードになった。
俺は舌先だけを一生懸命に吸うこなつをそのままに、下着を引き下げた。
ちょっと腰を浮かせて、脱がされてくれるのが愛らしい。
背中を撫でて臀部を揉んで、ちゃんと筋肉を感じる弾力を楽しんでから、尻側からゆっくり股の間に指を差し入れた。
ぬるりと濡れた感触がある。
「あ……」
つぷりと温かい所に指先が入り込み、動きを止めたこなつの様子をうかがう。
「もっと入れてもいい? それとも、今日はこのくらいにしておく?」
「続行で。挿入までがんばりますから」
男前な返事が返って来て、嬉しい。正直マテをされたら泣くところだった。
「無理はしないでね。こなつさん初めてでしょ?」
「全部初めてですよ。あ、違いますね、中を触られるのは、婦人科健診でありました」
「病院はカウントしなくてよくない?」
俺はゆるくピストンさせながら指を沈めていく。
狭いソコがまずは指一本の侵入を許す。
そのまま、キスをして、こなつの許容範囲を探っていく。
「オーガズムに達するには練習が必要だって読んだので、いろいろしてみたんですけど、なかなかうまくいかなくて」
こなつが細かく喘ぎながら、とんでもないことを言ってくる。
「えっちな告白ありがとうございました。おかげで全然収まりがつきません」
「上手に達せなかったらごめんなさい。次回に期待ってことで」
「処女なのによく頑張りましたというしかないよね、それは。それは是非とも俺が絶頂までお世話しなきゃ」
俺はこなつの寝かせて足を左右に広げて、浅く入り込んだ指を二本に増やした。
腟内からクリトリスに向かって柔らかく指を押し付ける。
「あ……そこは、初めて……」
「そう?」
完璧に整えられている下生えからのぞく、小さな芽にふっと息を吹きかければ身をよじってフルっと胸が揺れる。
義務みたいに感じていた行為が、遊戯に変わる。
唇を寄せて小さな芽を吸い出せば、こなつはひときわ声を高くする。
さぁ、どうしてやろう? 興奮で毛が逆立つ。
楽しい、すごく楽しい。
「あっ、あ……きもち……悠馬さん、すごい、上手……」
この場合、自分の手淫より上手という意味なので、安心してこなつの快感を追える。
何の心配もいらなかった。
こなつの体は俺が何をしてもびくびくと反応して、蜜をこぼす。
唇でクリトリスを挟みこみ、舌で押しつぶすようにして舐めしゃぶり、きゅっと吸い上げる。
こなつは息も絶え絶えで、俺の方に手を伸ばす。
それに応えて、こなつを抱きなおして、片手で中とクリトリスを刺激しながら口付ける。
こなつの中がきゅっきゅと俺の指を締め付けて、絶頂が近いことを告げている。
「胸も一緒に触るから、いけるかどうか試してみなよ」
後ろから胸を揉みしだき、足を絡めて逃げられないようにする。
「こなつ、いこうか?」
こなつの弱いところが分かってきた。
こんな楽しい作業ってない。
ここをこうやって、こっちも一緒に弄って……面白いようにこなつは嬌声をあげつづける。
「私ばっかり……」
いいんだよ、俺が見たくてやってるんだから。
「こなつ、イけよ。イくとこ見たい……」
とどめとばかりに、少し力を強めて刺激のスピードを上げる。
「あっ、ああっ!きゃっ……中が……ひっ、あっ……」
連続した締め付けを指に感じて、身を固くしたこなつがゆっくりと弛緩していく。
「は……かわ……」
俺はもう、これだけで満たされたようになって、まだふわふわを彷徨っているこなつの口を犯しまくった。
コンドームは買ってある。
別に期待していたわけじゃないけれど、お守りのような気持ちでこなつが来てから、こっそり押し入れに買い置きしていた。
「あの、結婚を前提なので、避妊をする必要は……」
俺が準備を始めると、こなつがもじょもじょと不満そうに言うのだ。
勘弁してくれ。ちゃんと予習して来たんじゃなかったのか?
嬉しいけど、嬉しすぎるけど、大切にするっていうのはそういう事じゃない。
「あのさ、何を見て予習をしたのか知らないけど、そんなの絶対ダメだから。後に引けない関係なんてだめだ。どこからだって間違えたと思ったら引き返せばいんだから。人はよく間違えるから、やり直しが効くようにしておかないと。間違えたところから別に進んで、全く別の希望が生まれるんだって――そんなことを大学で学んだんだと思う」
頭を掻きながら言うと、こなつは目も口も驚いたように開いて、その後、ぎゅっとしがみつかれる。
うがぁ、胸、腹、髪……ぜんぶぴったりとくっつくのヤバい。
「悠馬さん……私、今すごく、ランナーズハイと同じ感じがしていて……あ、あの、驚くかもしれないんですけど、たぶん、すごく、濡れちゃった……みたいで」
「ええ?」
「ど、どうしよう。悠馬さん、悠馬さん。私、悠馬さんが好きで頭がおかしくなりそう……」
何がどうクリティカルヒットしたのか、こなつに好かれている。
好かれるのっていい。世界がキラキラする。楽しい。
「ええと、じゃあ準備できたから」
「はい。おねがいします」
俺は恐る恐る避妊具をかぶせた先端を、こなつの色素の薄い花びらの間に押し付ける。心配ないほど濡れている。
「ほんとだ、すごく濡れてる。痛くない?」
可愛い。語彙力が死ぬ。
可愛い……可愛い。
「一つ、リクエストしてもいいでしょうか」
「な、なに?」
「私、一気に奥まで入れられて処女喪失っていうのをですね、体験してみたいんですよ」
こなつがとんでもないことを言い出した。
「はぁ? いや、怪我するって」
「破瓜の痛みっていうのに憧れがあって……」
「本気で言ってる?」
「悠馬さんが嫌なら、別に普通にでいいです」
「嫌じゃない。一気に入れるの、興奮する。でも、本当に痛くてもいいの? だいぶ慣らしたけど、最初は痛いらしいよ」
「……痛くてもいいんです」
顔を赤くして、羞恥に耐えながら言葉にしてくれるこなつは、全面的に信用できる。
これがすべてを預けてもいい存在なんだなと、はっとさせられる。
「こなつ、へんたい……」
「あはは……ですよね」
口付けして舌を深く交わらせる。俺の首に手をまわしてキスに応えてくれる。
「覚悟は良い?」
「いいですよ」
顔を見られるのは恥ずかしくて、こなつの耳を舌で犯す。我慢ができない。
湧き上がる言葉を吟味することなく、漏らすようにこなつに伝えてしまうのを我慢できない。
「俺ね、こなつのことが好きだよ。好き……好きだ」
言いながら、傷つけないように祈りながら俺はこなつの中に侵入する。
「好きじゃなくて、大好きかも」
また口付けると、締め付けが強くなって、そのまま爆発しそうで、脂汗をかく。
奥へ奥へ、こなつが望んだように、行き止まりまで突き進む。
いい、すごくいい。
こなつの体に歓迎されてる。
「え、ええ……ふえぇ……」
奥でずくりと陰茎が跳ねて、こなつが泣き出した。
やっぱり痛かったのか。そりゃそうだ。
「やっぱり痛かったか。いま抜くから」
すると、こなつの脚が俺の腰に絡みつく。
「ちがうの、抜かないで……ちがうから」
「無理するなって」
また、ぎゅっとしがみつかれて体が溶けそうだ。
「泣いちゃったのは、嬉しくなっちゃって。両思いだなぁ、って」
「え? 付き合ってるのに?」
「だって、なんか、こんなの幸せすぎて感動する」
こなつはひとしきり泣いた。
「悠馬さんは、どうしたら気持ちよくなりますか?」
やっと泣き止んで、ごろごろとこなつが俺の胸に擦り寄って来る。
泣いてる間、ずっとこなつの中で気持ち良い締め付けを味わっていたから、今更過ぎる。
「中に入っただけで、いっちゃいそうだけど?」
「え、私の中、気持ちいいですか? よかったぁ」
「俺のはどう?」
「好きです」
「好きに動いたらつらい?」
「悠馬さんの好きなの知りたいです……」
「了解」
指を絡めあって、唇も合わせて、気持ちよく腰を振る。
俺が好き勝手にしてるのに、こなつが俺のを締め付けて喘ぐ。
あー、好き。馬鹿になる。
ラストスパートで締め付けが強くなって、こなつの腰が揺れる。
俺はぎゅうぎゅうにこなつを抱きしめて、こなつにも強く抱きしめられて、全てを放出した。
********
今日からは、俺の部屋に2組敷かれた布団の間に隙間はない。
「ねえ、悠馬さん?」
ちょっと筋肉痛だと言ってストレッチしているこなつが俺に話しかける。
セックス後の筋肉痛、エロくてたいへん結構。
「私、来年もチャリティー枠取りますから、マラソン一緒に出てくれませんか?」
「そんなの、俺だってとるよ。こなつが俺のチャリティー枠で走ればいいでしょ」
「あー、そうですよね」
こなつがにまにまと笑いを噛み締めている。
片手を頭に添えて伸ばしている首筋がほんのり色づくのが見えて、さっきは必死すぎてキスマークの一つも残さなかったのだっけ、と悔やんだ。
別に次まで待つことないやと思いなおして、俺は遠慮なくその首筋に吸い付いた。
めでたし、めでたし。
end
最初のコメントを投稿しよう!