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何故かこの洋服?とやらは袴と違い、歩きやすく思う。
私、入江九一はこれから、しばらく、その、斉藤次郎か一朗か知らないが壬生狼と過ごさねばならないのにもかかわらず、お互いに目があったらにらみ合っている。
晋作は
「なア、一?だっけよう、おめえは着たことあるんじゃあねえか?」
「・・・なぜそう思う。」
「特に眺めももせず珍しがらず、当たり前のように着てんじゃねえか。」
「一応72まで生きたからな。その頃には普及していたように思う。」
「な、72!!!」
「ああ。生き残ってしまった。」
途端に浮かぶのは、悲しみに似ているが、憤り、切なさも混じっているように思える感情。
「生き残っちまったってどういうこった。」
「副長は…、土方歳三は、旧幕府軍として散った。
俺は、新政府として生き残った。挙げ句の果てには幕府側だったときに身に着けた剣術で出世。とある女学校の警備やらな。極めつけは東京、江戸のことだが、そこの治安を守る新政府の麻布警察署の警部なんて言う役をもらってしまったり。元は京都の治安を幕府のために守るはずだったのにな。」
普通なら出世した話を聞けば、自慢だと捉えられがちだが、斉藤が言うと、悲劇の身の上にしか聞こえないのは、彼の悲痛を感じているのがありありとわかるからだろう。
垣間見える憤りは幕府軍を裏切ってしまった己への自責の念ではないか。
「でもよぉ、一が突き進んだ道に中に志はあったんだろ。それだけで十分じゃねえのかよ。それに、仲間だって一が自分たちの見届けられなかった世界っつーもんを見てくれただけで十分だと思うけどな。」
「…高杉、ありがとな。」
「おう、晋作でいい。」
「じゃあ晋作、よろしくな。」
たった着替えの時間だけでここまで仲を深められるのは晋作の才能だろう。
「みなさ~ん、きがえおわりましたー?」
「おうよ」
障子が開いた。着飾った藍と海月が出てきた。
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