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ねるは父子家庭だった。
物心ついた時から、父と二人で暮らしていた。
父は仕事が忙しくてあまり構ってもらえず、何度か不満が爆発したこともあった。しかし、それでもねるは子どもながらに父の苦労を察し、父を嫌いになることはなかった。
何故自分に母親がいないのか、父に訊ねたことがあった。
父は、「嫌いになって別れたわけじゃない。いろいろ理由があった」とだけ教えてくれた。
当時子どもだったねるは、嫌いじゃないなら、何故一緒にいないのだろうと、理解できなかった。
そんなねるも、今や社会人である。
ハンドルネームの「ねる」は、寝ることが好きだったからつけた名前だった。
SNSのプロフィールは、こんな感じだ。
『寝るのが大好きなダメ社会人。朝のまどろみ、二度寝は幸せ。嫌なことがあったり、ストレスが溜まったりした時も、寝れば大抵の事はスッキリする』
そんなだから、平日の食事はねるが担当していたが、休日は布団が恋しすぎて離れられず、父親が食事担当のことが多かった。
翌朝、いつものように布団の中で朝ごはんの香りを感じながらSNSを開くと、フォロワーが一人増えていた。
ハンドルネーム『ネム』という人物だった。
プロフィールを見に行くと、ねると同じように寝るのが好きな人のようだった。アイコンのデザインも、色合いや雰囲気がなんとなく似ている。
親近感を覚えたねるは、朝食後にフォローを返してメッセージを送った。
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