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「会わせたい人? 誰だい、それは?」
ねるの父は、言いながらリモコンを手にし、テレビをつけた。子どもがこう言ってくる時は、大抵恋人の存在だったりするものだ。内心、気が気ではなかった。心を落ち着かせるためにテレビをつけたはいいが、それは単なるBGMと化した。
「ネムさんって言ってね。SNSで知り合ったんだけど、話しているうちに、私の双子の兄弟かもしれないって話になってね。ネムさんは、母子家庭みたい。ビデオ通話でも話したんだけど、本当にそっくりなの──」
それを聞いた父は、血の気が引き顔が真っ青になった。
「ネムさんだって?」
「そうだけど。どうしたの、お父さん?」
ねるは、父の様子がおかしいことに気づいたが、ネムに会える嬉しさの方が勝り、父の心情の変化にまで気を回すことができなかった。
「いいかい、落ち着いてよく聞くんだ」
父は、いつになく真剣な表情になり、ねるは少したじろいだ。
確かに、ねるには一卵性の双子の兄弟がいた。しかし、母親のお腹の中でうまく育たず、ねるよりもずっと小さく生まれて、数日後に息を引き取った。
ねるの母親はそのことでショックを受け、ねるに対しても何もできなくなり、話し合いの末、父がねるを引きとる形で離婚に至った。
そして、その母親も数日前に他界したと、知人から連絡をもらっている。
ねるは、その話を聞いてゾクっと肩を震わせた。
さらに父が、追い討ちをかけるように言った。
「おまえは、いったい誰と話していたんだ?」
その時、ピンポーンとインターホンが鳴り響いた。
二人は、同時にインターホンを凝視したまま動かなかった。
テレビから、場違いで陽気なCMソングが流れてくる。
ピンポーン。
もう一度、インターホンが鳴った。
二人はまだ動かなかったが、ノイズ混じりの音声が勝手に聞こえてきた。
『ねるさん、お母さん、連れてきたよ』
部屋の中に、ネムの笑い声が響き渡った──。
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