罪と罰と何か

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三田一聖の体育の授業内容は学内の散歩だ。一見目立たないが脚に事故の後遺症がある。小学生の時に電車の脱線事故に巻き込まれたのだ。数年は車椅子を使用していたが、意地もあって中学に入学後は自力で歩くようにしていた。それでも体育はほとんど見学で、徳丸文化大学でも身体の事情がある学生たち何人かで“散歩”にいそしんでいる。そのなかに車椅子に乗っている河村麗香がいた。 麗香は前髪パッツンのショートヘア。ハードなスポーツをする中高生にありがちな髪型だ。表情も暗く、あまり口数も多くない。でも何か事情があるのだろうと散歩仲間たちは気にかけず、細い通路では麗香の車椅子をサポートした。 その日は体育の後の講義が休講になり一聖と麗香はカフェテリアに向かった。ホットコーヒーを飲みながらたわいもない話をした。一聖は史学科、麗香は日本文学科だったが互いに苦手な化学の実験話で盛り上がった。 「私、みんなより年上なのよ」 ふいに麗香が口にした。 「気にするなって。社会人も多いし」 「高校三年の時に身体が駄目になっちゃって、ずっと休んで、復学して卒業したから」 「そうなんだ」 「あのね、あのね。私、ずっとバレーボールをやっていたの。背が高かったから」 思い詰めたような表情を麗香がした。長い話になりそうだと一聖は感じた。
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