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史学科学生の田柄ひかりは体育の授業の帰りに校門付近が大騒ぎなのに気づいた。
二十代から四十代と思われる男性が十人ほど集まって文字の書かれた紙を頭上にかざし
何か叫んでいる者もいた。
「犯罪者河村麗香を逮捕しろー」
「逮捕しろー」
ただ事じゃない。ひかりは男たちと目をあわさぬよう走り抜けると
一聖と麗香がいた。
「何の騒ぎ?」
ひかりがたずねると車椅子の上の麗香が泣き出した。
一聖がちょっと慌てながら言った。
「そうだ、河村さん。田柄さんに相談してみよう」
人気のない庭の片隅で一聖はひかりに麗香のことを話した。
「河村さん、こんな感じでだいじょぶ?あと何かある?」
「ありがとうございます。私が悪いんです、私のせいなんです。でも…」
「河村さん、その事件は覚えているわ。あなたに害を加えた男は今どうしているの」
「まだ裁判中で拘置所にいます」
「あなたがネットで悪く言われたことはご存知ですよね」
「はい、でも私もこんなになってしまって、バレー部ではずっと行われていたことなので、そこまでとは思えなかったんです」
「そこが一番問題よね。バレー部OG全員、監督、校長、皆責任があるわ。その行方不明の監督ってなんなの」
「先生は、米田先生は私にとっては熱心で良い指導者なんです。今ではパワハラ、モラハラって言われてしまうんですが」
「いわゆる洗脳ね」
「洗脳、ですか」
麗香が驚いた顔を見せた。
「河村さん、監督さんからバカとかブスとか言われたことあります?」
「そんなのしょっちゅうです。なにくそ、と思ってました」
ひかりがうなづいた。
「監督をなんとか見つけるのが先だろうけれど、素人にはちょっとね。あと、謝罪した方がいいんじゃないかしら。少なくとも電車の利用者に」
「謝罪ですか…」
「幸い今は動画サイトがあるわ。作戦を練りましょう。明日もお話うかがえます?」
「はい!」
バレー部の練習の時のように麗香が答えた。
「まずは裏口から帰りましょう」
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