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いよいよ本番開始だ。
ひかりと麗香が話す内容を何度も確認する。
「間違えたりつまってもだいじょぶよ。もちろん編集もできるけれど言い直したりした方が良いと思う」
秋信と一聖が何度もスマホでためし取りをする。
「テストのつもりでまず一回撮ってみよう」
「よし!Q!」
画面の左手から麗香の車椅子がフレームインした。麗香が視線を30秒下げてから正面を向く。
「河村麗香と申します。身体の事情で頭を下げることも立ち上がることもできないことをまずお詫びします」
また、視線を十秒下げた。
「私が四年前に花江駅で事件を起こしました。私は花江女子学園バレーボール部員で、私たちは毎日駅で下級生にドアを押さえてもらい、上級生が乗り込むまで電車を遅らせるという行為をしておりました。多くの鉄道利用者、鉄道職員、関係者に御迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。皆様のたいせつな時間を奪ってしまい、申し訳ありませんでした。」
また、視線を下げる。
「そして、乗客の方が私に暴行を加えるという結果になってしまい、現在裁判中ですが、加害者にさせてしまったことは、私に原因があります。また、電車の遅延は私の所属していたバレー部全員が以前から起こしていたことでもあります。少しでもその乗客の方が軽い罪ですみますことを私からもお願いいたします。また、私も逮捕してください。お願いします。
先生、監督の米田茂先生、出てきていただけませんか?先生も事情を全国に説明してください。もうバレー部もありません」
麗香は思ったよりも淡々と話した。最後にまた謝罪をして視線を下げる。その映像で撮影を止めた。
「よしっ!確認します」
秋信がよく通る声で言った。
全員黙って映像を確認した。
「オーケーですねっ」
一聖が発する。
「オーケー!」
皆の声がそろった。
「ありがとうございます」
麗香が涙をこぼし、夏奈ももらい泣きした。
反響は三日後にあった。
麗香のSNSは当然炎上したが、校門前にやってくる男たちは姿を見せなくなった。
ネット上では麗香の容貌の変化の方が話題だったのである。
「不細工が、整形レベル。替え玉?」
「タイーホ、はよ」
麗香は数日家にこもっていたが、すでに心を決めていた。家族のいない時間に車椅子のまま利用できるタクシーをネットから呼び出す。一人で家の外へ出て、やって来たタクシーに乗り込むと花江駅前の交番へと向かった。
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