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花江駅前交番の所でタクシーから降りたのが麗香だとわかると
また、あの男たちがわいて出て来た。
「わっしょい、わっしょい」
「逮捕、逮捕」
「不細工。整形」
麗香は無視をして交番の中へ呼び掛けた。
「私を逮捕してください」
警官たちの視線が上がる。
「私は春江女子学園バレーボール部のエースの河村麗香です。三年間電車を遅らせた罪で逮捕してください」
一人の警官が困惑したように出てきた。
男たちの集団は逮捕コールをやめず騒ぎになって来た。
そこへ二人の別の警官が初老の男を引き連れて来た。スーパーでの窃盗容疑で捕まったのだった。
麗香はその人物を見て驚いた。
「先生!米田先生ですよね?」
米田と呼ばれた男も視線を上げた。
「え?車椅子…河村か?」
しばらく見つめあったが、米田はいきなり土下座した。
「河村くん、すまない、申し訳ない。許してくれ」
どこに隠れていたのか、汚れてくしゃくしゃになった米田は涙を流しながら麗香の車椅子の前に手をついた。白髪が増え、麗香にはひどく小さく見えた。
──早く帰れよ。あんまり電車を遅らせるんじゃないぞ──
(いつも練習の後に先生は笑顔で言ってくれていた。なのに…こんな人だったなんて。あの笑顔はなんだったんだろう)
私の“先生”はどこへ行ってしまったのか。テレビで見た記憶のあるカルト集団の教祖と信者を麗香は思い出した。
「先生、いえ、米田さん。もう私はあなたを信じていません。私は私の罪を罰してもらいに来ました。米田さんもそうしてください」
米田茂はただ泣き続けるだけだった。
逮捕!
逮捕!
逮捕!
男たちのコールは止まない。
〈了〉
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