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壇上には、この国を統べる王と、その妃、彼らのひとり娘である、美しくて心優しい彼女が並ぶ。
「そんな……」
「恐れ多くも、私の占卜では、「姫様のご縁談がお決まりにならないのは、前世からの因縁に因るものである」という相が出ております」
その御前に頭を垂れる私は、この国に仕える占術師集団のひとりだ。自分で言うのも烏滸がましいが、その中でも若い方ながら、実力は上から数えた方が早い、と言われていて、壇上の王族を始め、王に従う貴族たちからの覚えも良い。
「前世での姫様は、想い合う者との婚姻を家が認めず、苦しみの果てに心中を図りました」
「……なんと……」
「その前の生での姫様は、婚約者と共に戦に巻き込まれ、命を落としました」
「あぁ……なんてこと……」
現世での話ではないとはいえ、己の娘の前世が、尽く非業の死で終わるものだと知って嘆かない親はいないだろう。
「その前も、更にその前も。姫様の前世には必ず、悲恋が付き纏っておられます。その結ばれずにいた縁が、今生で結ばれようとしているのでしょう」
「つまり、その相手の生まれ変わりを探せば良いのだな?」
「ええ。……しかし、身分はおろか、男ではない可能性も、人間ではない可能性も考えられます」
「ううむ……それは困るな……」
「……でも、人間ではあるかもしれないのでしょう?」
それまで黙って話を聞いていた姫が口を開く。美しくて、心優しく、聡明。国民からも愛される、王家の一粒種だ。
「会ってみなければ分からないのならば、わたくしはお会いしてみとうございます、お父様」
「――相手となる者の背には小指の先ほどの薄い痣があるようです。導の星のような形です。もしもお探しになられるようでしたら、手がかりになるのではないかと」
姫が希望した事もあって、それからすぐに姫のお相手探しは始まった。まずは自国の貴族やそれなりの家柄の家の子息、近隣の同盟国の王族、貴族の子息。それらの中に条件に合う者がいないと分かれば、有力商人や騎士。お触れを立て、平民に募る頃には、探し始めてから数年が経っていた。
「各地を回ってみたが、該当者はなし、と」
地方貴族や諸侯を使い、国の隅々まで、子供から中年まで、男も女も関係なく探したものの、結果は芳しくなかった。勿論、この数年の間に通常の見合いにも臨んではいたが、やはりどの縁談も様々な理由で上手くいかず、決まらなかった。
「やはり、人ではなかったのかしら……」
王妃が嘆く中、齢を重ねてより美しくなった姫がにこりと微笑んだ。
「お父様、お母様。この世の全ての者を、まだ確認しておりませんわ。……それから、彼も」
「!?」
姫が指したのは、私。確かに、城の中で働く者たち、特に、私のように住み込んでいる者たちは、見過ごされていた。
「――急ぎ調べます」
私は、幼子の頃から能力の片鱗が現れていて、7歳で王宮に召し抱えられた。出身が地方だった事もあって、以降、現在に至るまで、国家占術師のひとりとして王宮に住まい、働いている。理由こそ様々だが、そんな風にして、王宮に住み込んでいる者はそれなりにいる。そんな彼ら彼女らを集め、互いに互いの背を確認してもらい、そして。
「そなたの背に、導の星のような形の痣があるそうだ」
「はい。……思ってもいない結末に、私自身が驚いています」
結果として、導の星の形の痣の者は、住み込みの者の中から見つかった。姫の前世を視た、私の背に。
「姫様の事は勿論、愛しております。なれど、真にお相手を選ぶのは姫様です。私はそのお言葉に従おうと思います」
私を見る姫に、そっと目配せを。
「わたくしは、彼を側に置きたいと思います。前世からの縁かどうかは分かりません。けれど彼は、幼い頃からわたくしの側に在り、わたくしを助けてくれました。彼ならば、添い遂げても構いません」
頬を淡く染め、そう話す姫と私が、既に恋仲である事は誰も知らない。ふたりで結ばれるために知恵を出し合い、「運命の人」をでっち上げた。
「ありがたきお言葉、嬉しゅうございます」
深々と頭を垂れ、胸中で安堵と決意を新たにする。
姫は覚えておられない様子だが、私がでっち上げ、「占卜で読んだ」とした前世の話は、全て真実。私は、いつの生も姫と想いを通わせながらも結ばれない相手として転生し、その記憶を持っている。私は、その悲劇の輪を断ち切りたい。今度こそ。
「今生こそ、姫様を必ず、お守り致します」
きっと。必ず。全てをかけて。
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