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「夜は肝試しもあるって」
「やりたくない」
渓が思わず言うと。
「だよねー」と小津さんがうなずく。
小津さんのほうを見ると、目が合った。
ニコッと微笑んでくれる。
そばかすがあって、まるで赤毛のアンのような女の子だ。
(この子とは仲良くなれそう…かも)
「まあいろいろ面倒だけど、楽しみだね」
小津さんがそういってくれて、渓は少しホッとする。
「深雪ー」
小津さんのところにやってきたのは、いつも一緒にお昼を食べている福田菜月さん。
少しぽっちゃりしているが、なんとなくマスコットキャラ風で可愛らしい。
確か隣のクラスだったような気がするが…。
「じゃんけんに負けてリク係になっちゃったー。今から1ー2で打ち合わせしてこいってさー。あーあ、超だるーい。なんであのときチョキ出しちゃったんだろー」
肩をコキコキ鳴らす。
「いま吉岡のところで話し合いやってるよ」
「へー、吉岡がリーダーなんだ。じゃまた」
福田さんが小津さんに手を振って、去る。
そのとき、チラッと渓を見た。
渓はビクッとする。
「リク係なんてあるんだね」
佐藤さんがつぶやく。
「肝試しとか、キャンプファイヤーとかを企画して盛り上げる係みたい。吉岡大好きだからさ、そういうの」
「同中なの?」
「うん。小学校から一緒。腐れ縁ってやつ」
小津さんがハァ…とため息をつく。
…アハハハハ!!
笑い声が聞こえてくる。
ひときわ大きいのは、須藤環菜の声だ。
吉岡の隣にぴったり密着している。
よくよく見ると、メンバーは今朝、渓の席付近でたむろっている人たちだった。
なんだ…打ち合わせだったんだ。
福田菜月さんだけは輪に入り切れないのか、小津さんに向かって「たすけて」と口パクをしている。
「しょうがないなぁ」
面倒見のよい小津さんは立ちあがり、輪の中に入っていった。
「……」
「……私たちも解散しようか」
「うん」
佐藤さんとも離れ…。
渓は席に戻ろう…とするが、吉岡の周りは、人口密度が高くて戻れない。
仕方ない。トイレにでも行こう。
廊下を歩いていると、貼り出されている「天文部 部員募集」のチラシに目がいった。
入部届に記入を終えて、あとは提出するばかり…だった。
数学のように、天文学のことも教えてもらいたかったけれど。
環菜の姉が部長をしていると聞いて。
一気に気持ちが萎えてしまった。
教室に戻ったら入部届は捨ててしまおう。
渓は…そう思った。
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