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「相手の陣地に乗り込んで、その子を救いだしたのよ。生徒思いのいい先生よね」
須藤環菜のことだ。
……環菜に何かがあって、山センが救いだした。
だから……山センは怪我をしてたの?
「まあ、それで私たち頻繁に連絡取り合うようになって。急接近中。付き合うのも時間の問題かな。今度、朔の部屋に行くことになってるし」
「…!」
「朔のこと好きだったらごめんなさい。でもあなたは生徒だし、付き合うことなんてできないわよね」
「……」
「朔の頭からようやく、つばさを引き離せそうで良かったわ」
ノリコはそう言ってニコッと笑う。
「鎌ちゃん鎌ちゃん! こんなところにいた」
向井さんがやってくる。
「じゃあまたね」
ひるがえって、歩いていく。
「なーにあの人。感じ悪そうね」
「……」
渓は無言で、バンに乗り込む。
去っていくバンを見送りながら、ノリコは口角をあげた。
バンの車内では…。
向井さんに「疲れた?」と聞かれているところだった。
「…はい」
「そうよねぇ。若いけど、はじめてのことはなんだって疲れるわ。これからの土曜日、たまに配達入るけれど、そのときは今日みたいによろしくね」
「…はい」
……失恋が確定した夜。
涙がこぼれないように、上を向いて歩こう、と思うけれど。
空は曇って、星が見えない。
帰ると、姉の澪が上機嫌で食卓にいた。
…ああ、今日はオフだったのか。
「渓ちゃんおかえり」「おかえり」
「…ただいま」
母親相手に、熱弁をふるっている。
「私がチーフに怒られてるとね、その人サッと助けてくれるの。年下の男の子だけど、すごく気がきいてね」
頬を上気させて、まるで恋をしているような。
恋って、本来は……こんな風に楽しいものなのに。
私はなんでこんな…嫌な思いばかりしてる……んだろう。
テレビを見ていた、父と弟が「うわああ!」と歓声をあげた。
ミルキーもワンワンと吠える。
「いけいけいけー!」
「よっしゃあ! ゴール!!」
「ワーン!」
サッカー中継が流れている。
「点数入ったの?」
「ああ!! 日本に1点…」
涙声になる父の武。
画面の向こうでは、得点王が仲間たちにもみくちゃにされている。
ふい…に、吉岡を思い出した。
太陽みたいな男の子。
リーダーシップがあって、頭がよくて、
…私を助けだしてくれた。
そして、今も私を好きでいてくれている。
告白の返事……1ヶ月以上待ってくれて。
…吉岡くんと付き合ったら……。
私、明るくなれるかな。
姉の澪みたいに…楽しい恋愛ができるのかな。
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