シリウスを追いかけて

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でも本当にいいのだろうか。 山センに気持ちが残ったまま、で。 (やっぱり断ろう) 山センと結ばれなくても。 やはり私は……。 あのノリコって人も、本当のこと言っているか怪しいし。 長年、山センに恋していて、やっと振り向いてくれた!と勘違いした可能性もある。 …第一、山センはあんな人がタイプではないと思う。 写真の星野つばささんは、上品で理知的な印象だったから。 月曜日、教室の扉を開けると。 なんだかガヤガヤ騒がしい。 「心配かけてごめんねー!」 輪の中心にいたのは…須藤環菜だった。 「まさか、整形のために学校休んでたとは」 「相変わらずぶっとんでんな」 環菜がこっちを振り向く。 目頭切開されてさらに大きくなった両の瞳が、渓をとらえた。 こちらを見て、ニッと笑った。 タヌキ顔の代表格と呼ばれる女優に似ている…。 「目が大きくなって可愛くなったね」 「えー、私も整形したーい」 ちやほやされ続けて、環菜は嬉しそうにウフフと笑う。 …ノリコさんが言ったことはやっぱり嘘だ。 登校してきた吉岡が、環菜を見てギョッとする顔をするけれど。 環菜は吉岡を見ようともしない。 (あれ……?)と渓は思う。 あんなに吉岡吉岡言っていたのに。 渓がふっと廊下に目を向けると、山センが歩いているのが見えた。 山センが視線を感じたのか、渓を見る。 「……」 「……」 無言で見つめあう。 「あ、ちょっとゴメン」 周りの話を叩き切って、環菜が廊下へ走っていく。 「朔ー!!」 山センが振り向いた。 「今日、ランチ一緒に食べていい?」 「寄るな!」 「照れないでよー!」 ……周りは呆然としていた。 瑛茉でなく、今度は環菜が山センを? というか、いつのまに2人はあんなに仲良くなったの? 「っ!!」 渓はこらえきれなくなって、教室から出て、2人とは反対方向に行く。 踊り場に行くと、上から風が入ってくる。 まさかと思って階段を駆け上がると、屋上の鍵が開いていた。 渓は屋上へと出ていく。 (私だけ…の先生じゃなくなっちゃった) 何があったかわからないけれど、 山センは須藤環菜を助けたんだ。 生徒だから、分け隔てなく。 その…当たり前の事実に、予想以上のショックを受けている。 「鎌田?」 背後から声がして、渓はにじんできていた涙をぬぐう。 …吉岡だった。 「鎌田に…好きな奴がいる、ってわかってるよ」 「……」 (……吉岡くん) 「…長い間、保留にしていてごめんなさい」 「絶対、俺のこと好きにさせるから」 吉岡が近づいて、背後から渓を包み込むように抱きしめる。 「付き合って」 「……」 渓が小さくうなずくと、耳元に安堵のため息が聞こえた。 「好きだよ……渓」 渓は、思わず下を向いた。
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