シリウスを追いかけて

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渓と深雪が、校庭のベンチに座っている。 「付き合うんだね」 「うん」 「やっとだよ! もっと早く付き合うと思ったよ」 「う…ん。ごめん」 「吉岡のこと、大事にしてあげて」 「……」 「その役目は、渓でしかできないから」 「……」 渓は、そっと目をふせた。 『今夜はプラネタリウムに行きます』 LINEにそう入れると。 母親から『OK』のスタンプが送られてきた。 ……1人になりたい。 そんな気持ちを、星好きの母親は汲み取ってくれたようだ。自身にもかつて、そんな時期があったのだろう。 『帰るとき連絡入れてな。駅まで迎えにいくから』 続けて入るメッセージに苦笑する。 過保護なのは相変わらず…だ。 プラネタリウム……。 ここ最近、全然行っていなかった。 この半年でだいぶ変わった…。 引きこもりがちだった私に、友達そして……彼氏ができた。 上映までの時間、フロアで待つ。 色褪せたパネルを眺める。 この間の続き、どこだったっけ? 受付のおばさんがやってきた。 「久しぶりだね」 「こんばんは」 「…なんか言いたいことあったんだけど、忘れちゃったわぁ!アハハ」 明るいおばさんだ。 「このパネル……」 「ああ!そうそう!! このパネルのこと気にしてたから、山瀬先生が書いたのよって伝えたかったのよ」 「山瀬先生…」 「山瀬恒久先生。県立高校で教員やってて、定年後はこのプラネタリウム室にボランティアでガイドやってくれてね。もうずいぶん前に亡くなってしまったんだけど。先生のおかげで天文学ファンが増えたよね。今も、先生に花を…って来てくれるお客さんおるよ」 なんとなくわかっていたこととはいえ、感激で身震いしてしまう。 「……そうなんですか」と言うのがやっとだ。 「一番のファンはお孫さんじゃないかな。よくここに連れてきてな」 「…朔さんですか?!」 「そうそう!朔ちゃん。知っとるの?」 「あ、はい」 「もしかして生徒さん?」 渓はコクンとうなずく。 「そうだったのか。じいちゃんじいちゃん…ってまとわりついてたね。懐かしいねぇ。朔ちゃん元気かね。先生になってから、全然来なくなっちゃったね」 「……」 「お祖父さんが亡くなった後は、ずいぶん落ち込んじゃって。つばさちゃんがよく面倒みてたよ」  「!!」 「プラネタリウム、開始5分前でーす」 警備員の人が声をかける。 (…もっと聞きたいけれど……) 渓は頭を下げて、エレベーターに飛び乗った。
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