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久しぶりのプラネタリウム。
太陽が西に流れていき、静かに日が暮れて。
まもなく、夜の世界がやってくる。
文化祭のパネル…。
似ていて当たり前だ。
お祖父さんのパネルを見て、山センは育ってきたんだから…。
じいちゃーん、とトコトコ追いかける小さい男の子の姿が、脳裏に浮かぶ。
そして、背が高くなり大きくなった男の子のそばにつばささんがやってくる。
お祖父さんを亡くした男の子は、すがりつくようにその女性を見て。
『シリウスは、惑星や月などをのぞくと全天で最も明るい天体であり、太古より季節を知る上で重要視された星です』
ハッ!と渓は我にかえる。
ここに来ると、他のことを考えてしまっていつも上の空で聞いているような気がする。
せっかくのプラネタリウムなのに。
『シリウスはおおいぬ座、中国では天狼星と呼ばれており、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウスをつなぎあわせて、冬の大三角形と呼ばれます』
私がタヌキなら、山センは狼じゃないのかな。
一見、怖そうだけど仲間想い。生徒たちを全力で守ってくれるんだ。
終わった後、
受付のおばさんに「ありがとうございました」と言う。
「さっきは、余計なことばっかりしゃべってごめんな」
「…いえ」
「余計なことついでに。実はここ、老朽化で取り壊しが決定しとるんよ」
「……」
「正確な時期はまだわからんけど。来年か再来年か」
「…そうなんですか。寂しいです」
「なあ、寂しいよな。だから来られるときはどんどん来て。私は月島っていうの。名字に月がついとるからって軽い気持ちでプラネタリウムの受付やりはじめたんだけど。…四半世紀以上おって、今じゃすっかりここの主よ」
渓はくすり…と笑う。
「辛いときもあったけど、ここの星たちに救われてきたわ」
月島さんは遠くを見るような目をする。
「ってまた、長々とごめんな。ばあちゃん話が長いよ~って孫から言われてるんだった。じゃあ、またね」
「……はい」
外に出て、夜空を見る。
はあ…と、かじかむ手指に息をふきかける。
冬の空は、空気が澄んでいて星が見やすい。
シリウス…シリウス…
(あ、あった! 冬の大三角形も)
探さなくてもすぐに見つかった。
(冬のダイアモンドは…さすがにわからないや……)
星を題材にした芸術作品が多い気がわかるような気がする。
1人1人の人生に彩りを与えてくれるのだ。
太古の昔から、人間は星を眺めて物語を作ってきた。
人間の小さな悩みも……宇宙にとってはたいしたことではない。
何万回も言い尽くされてきたこのフレーズが、今の渓には痛いほど染みた。
そして、そのフレーズを言って反応してほしい人。
隣で一緒に星を眺めていたい人は。
……1人しかいなかった。
(大好きだったよ、山セン…)
渓の瞳から、涙が星のように瞬いて流れ出す。
もうすぐ年が変わり。
……渓は、高2になる。
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