⑥モノローグ @二日月(♠️)

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⑥モノローグ @二日月(♠️)

月齢2日の月は、糸のように細い。 あっというまに姿を消すが、 うっすらでも…確実に。 存在を残す月だ。 入学してすぐのオリエンテーション。 この高校に赴任してから何度繰り返してきただろうか。 星が綺麗な山地だから、天体観測にはうってつけで、毎年付き添いの仕事をひそかに楽しみにしていた。 キャンプファイヤーを終えてシャワーをあびてバンガローに戻ってくると。 肝試しで道に迷った生徒がいる、と大騒ぎになっていた。 …ああ、今年も出たのか。 すっかり慣れている俺は、早歩きで探しにいく。 道案内は星だ。 北斗七星さえ見つければ、あとは方位磁石がなくても…まあ大丈夫。 夜目がきく方だけれど何かあるとまずいから、電灯を照らしながら足跡を追った。 (何か聞こえる……) それは讃美歌の一節のようだった。 ああ、わかる。 と思う。 星を見ていると、畏敬の気持ちがわくんだ。 星をテーマにした歌は数多くあれど、この満天の星を前にしては…。 讃美歌が一番合っている。 (でもまあ、星を見て歌ってるわけではないだろうけど……) ひとりごちる。 ガサガサと草木を切り開いて、大きな穴を見つけた。 電灯で中を照らし出すと、女の子が落ちているのが見えた。 その子の大きな瞳に映っているのは、星空だ…。 背中におぶると軽く、まだまだあどけない。 強気な態度で虚勢をはるけれど、本心は怖がっている。 可愛いな、と素直に思った。 星座の話をして、天文学に強い関心があることがわかる。 星についてこんなに話せるのも、つばさのとき以来。お互いに黙っていても苦痛にならない、妙にしっくりくる…相性。 …予感がした。 離れないとまずい。と思った。 生徒に恋をしてはいけない。
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