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山瀬先生の声だ…。
1ー3の担任だから、オリエンテーションに来ているのは知っていた…。
環菜が早口で言い返す。
「だって、Fの人数足りないって言うんだもん。私入れて7人だよ。だからちょうどいいじゃん」
「そういう問題じゃねーだろ。各班ごと、人数分カウントして材料用意してんだ。元の班に戻れ」
「だってぇ……」
環菜がこちらをふりかえり、渓をヒタッと見つめる。
山瀬もつられて、こちらを振りかえった。
(あ……)
…一瞬、山瀬と視線がからみ合う。
渓は慌てて目をそらした。
(変に思われたかな?)
と再度見たときには、山瀬はすでにいなくなっていた。
「最悪なんだけどー」
環菜が不機嫌オーラぷんぷんにして、Aグループに戻ってきた。
「第一、山瀬は私の担任じゃないじゃん。天文部だって、瑛茉の付き合いで入ってあげてるだけなのにさー」
「ドンマイドンマイ」
小津さんが優しく慰める。
(小津さん…良い人ぶっちゃって…)
渓は少しイラつく。
「んで。何?何すればいい? ちょっとそっち詰めてよ」
玉突き状態になり、一番端っこにいた渓は、テーブルからはみ出す。
その様子を見て、環菜は口角をあげた。
(わざとだ!)
と思うものの、
渓は冷静に、反対側へ場所を移動する。
相手になんか…したくもない。
「須藤さん、カレールー用意してくれない?井上くんは飯ごうの火加減見てほしいんだけど」
調理が佳境に入り、小津さんがテキパキと指示しはじめた。
「小津っちってさー。吉岡と同中でしょ」
「うん」
「中学の頃、どんなだった?
やっぱサッカーバカ?」
「…サッカーバカだったけど、成績は良かったかな」
「へー彼女とかいた?」
「…うーん。いたような?いないような?」
「んもー、どっちー?」
小津さんも…なんだかんだ、環菜と同じタイプなんだ。話が盛り上がって楽しそうだ。
小津さんとは仲良くなれそうだったのに、とガッカリする。
と、そのとき。
同じ背丈の井上くんが、渓の前に乗り出して、塩こしょうをとろうとした。
整髪剤が混ざった脂じみた体臭が、フワン…と漂って。
(っ!!)
渓は慌てて後ろに退いた。
「わ、悪りぃ」
井上くんが驚き、そしてほんの少し傷ついた顔をする。
「……」
この整髪剤の匂いは、特に苦手……。
井上くんが嫌なわけじゃない。
男の人が突然近くにくると、今でも怖いだけで。
でも、言い訳をしたくてもできない。
環菜がそれを片目で見ていて、ニヤニヤ笑っていたことに、渓は気がつかなかった。
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