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カレーをグループごとで食べ終わったあとは。
午後は進学校らしく、
大学受験に向けての話を聞かされる。
『高校時代に、何か打ち込めるものを作りなさい』
今…この学生時代が、きっと…自由にできる最良のときなんだろうな、と渓は思う。
毎朝疲弊しながら出勤する澪の姿を見て、特に…そう思った。
好きで進んだパティシエの職業なのに、社会に出たら「使えない奴」だとレッテルを貼られて、いびられている…らしい。
辛いのになぜか笑顔でいる姉を見ると、情けない悔しい…!の気持ちがわいてきて、ここしばらく口がきけていない。
「じゃあ、夜のバーベキューまで各自バンガローで過ごしてー。シャワーは時間通りに使用するように。はい解散ー」
先生が手を叩いて指示をして。
「これからどうするー?」
生徒たちはガヤガヤと散っていった。
「吉岡ー! 肝試しルート確認行こうよー」
環菜の声が響いた。
「先行っててー」
環菜たちが連れだってハイキングコースのほうへ向かう。
それを端で見ながらバンガローへ向かおうとしていた渓を、
「鎌田さん」と呼び止める声がする。
…吉岡だった。
(あれ? 一緒に行ったんじゃ)
「こないだは毛虫で驚かして…ごめん」
「え?」
「今夜の肝試しは、毛虫は出てこないからぜひ参加してほしいんだけど…。そっちの方面で脅かすつもりはないから」
毛虫を出すつもりはない、って言ったって。
毛虫は森にいっぱいいるわけで…。
「……ウフ」
渓は思わず笑ってしまう。
「……」
吉岡が動きを止めて、真顔になった。
「わかった。気が向いたらね」
渓はそう言うと歩いていった。
(…吉岡くんが皆から好かれてる理由が、なんとなくわかった気がするな。
私の座る席がないときも、いち早く気がついて皆にどけよと言ってくれたり。
けっこう、良い人かもね。
…変に意識してたから、気がつけなかったけど)
取り残された吉岡は、その場でしばらく呆然とする。
「吉岡~!」
福田菜月がやってきた。
「な、なに?!」
吉岡は異様に驚く。
「早く来てよ~。さっきから待ってるんだけど。ん、なんか顔赤い?」
小津深雪と同じく、福田菜月も吉岡と同じ□□中学出身だ。
見ると、ハイキングコース入り口で、リク係がたむろしている。
先に行け、っていってたのに…と吉岡がつぶやく。
「肝試しマップ、さっき初めて見たけど、なんか…危ない道多くない?」
菜月が眉をしかめて問いかける。
「ルートじゃない立入禁止のところにはビニールテープをくくりつけるよ。最短で8分くらいのコースで迷う奴はいないとは思う…」
「そう。それならいいけど~」
吉岡は振り返ってバンガローのほうを見やってから、菜月と一緒にハイキングコースへ向かった。
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