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気持ちも凪いだので、教室に戻ろうと廊下を歩いていると。
風でとばされてきたのか、白い紙が1枚、渓の足元にまとわりついた。
拾いあげると、それは部活案内のチラシ…で。
[天文部 部員募集]
と太いペンで殴り書きのように書かれていた。
(やる気なさそー。しかも、汚い字)
と思う反面、
(天文部か…)と少し心が動く。
星は好きだ。
両親、特に母親の影響があるかもしれない。
小さい頃は星が見える場所でキャンプしながら、よく夜空を眺めたものだ。
✕ ✕ ✕ ✕ ✕
「あれがこぐま座よ」
母親が夜空に向かって、指をさす。
「こぐま? どこ?」
姉の澪がはしゃぐ。
「えーっと、あそこが顔の位置で。ぐいっと下にいったところがシッポかな」
「わかんない」
6歳の渓が…ボソッと言った。
そんな説明じゃ…全然わからない。
「想像力を働かせてな」
「…うん。イメージしたら、なんとなく見えてきたかも!」
澪が言う。
「え? ウソ」
思わず声が出てしまった。
お姉ちゃんって、言われたことをすぐ信じてしまうんだよね。
いくら目をこらしても、こぐまちゃんなんか見えないのに!
不満そうな渓を見かねたのか、母親の華絵が優しく話しかける。
「渓ちゃんなぁ。無理して星を見つけんでもええの。星や月は、ただ綺麗だなぁ、と思うだけでええんよ」
「……」
「ただし、金星は見つけてほしいけどなぁ」
隣にいる父親の武に、肘でツンツンとつつく。父親の腕の中では、1歳になる弟の涼がすやすや眠っていた。
「ああ?」
「それと、月が綺麗ですね、とかな」
「…あー。ハイハイ」
「もー! 意味わかっとるー?」
両親はいつものように仲良く、じゃれあい始めた。
姉の澪は、そんな両親をニコニコ見ていたが。
渓は再び夜空を見上げて、こぐま座を探し始めた。
絶対見つけたい。
私だって、空に浮かぶこぐまちゃんを見たいもん!
でもその夜は…見つけることはできなかった。
✕ ✕ ✕ ✕ ✕
…と。時空がとんで、すっかり回想にふけってしまった。
現在に戻った高校の廊下で、渓はパチパチと頬を叩く。
持っていたチラシに、再び視線を落とすと、下のほうに小さい字で
[顧問:山瀬]と書かれている。
(山瀬…?)
何か思い出せそうだったけど、
始業のチャイムが鳴って、
(やばい!教室に戻らなきゃ!)と走り出した渓の頭の中から、すっぽり抜け落ちてしまった。
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