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渓が自分の席に戻り、天文部のチラシを眺めていると。
隣の席の吉岡颯汰が、
「天文部入るの?」と聞いてきた。
吉岡は入学当初から馴れ馴れしい。
隣の席になったからか、アレコレ話しかけてきて。
渓が塩対応しても、めげずに声をかけてくる図太い神経の持ち主…。
渓は教室を見渡してから。
「悩み中…」と答える。
…良かった。今はあの女子がいない。
吉岡と話をしていると、すごい目つきで睨んでくるから。
きっと、吉岡のことが好き。
いや、絶対好き。経験上わかる。
……だから吉岡ともあまり関わりたくないのに。
「天文部あるの、うちの高校くらいじゃねーかな?」
「そうなの?」
「なんか、めちゃくちゃ天文学オタクの先公がいるらしくて。そいつが赴任してから創部されたって聞いた」
「へー」
「…鎌田サンは星が好きなの?」
「…あ、」
渓が口を開きかけたとき。
前のドアから、白衣を着た背の高い男性が、突然入ってきた。
鼻筋が通って顔立ちが整っているが、黒い縁取りメガネのせいで、冷たい印象をうける。
……少なくとも優しそう…ではない。
(あ、あの人…。さっき廊下でぶつかった……)
その直後、チャイムが鳴る。
みな唖然とするなか、日直があわてて
「き、起立! 礼、着席!」の号令をかける。
そのメガネ男は、チョークを手に持つと、黒板に[山瀬]と書いた。
(あの人が山瀬? チラシに書いてあった天文部の顧問だ。さっき吉岡くんが言ってた創部したっていうオタクの先生なの?)
渓は思わず、隣の吉岡を見る。
吉岡は机の下で、スマホを打っている。
(おい…)
渓は呆れて、視線を前に戻す。
「山瀬です。数学を担当します」
おざなりにペコリと頭を下げる。
「さっそくだけど、4頁目開いて」
声のトーンや言い方で、さっきの昼休みに、図書室と廊下にいた人物だとわかる。
まとわりつくな!と言っていた人…。
なんだ。この先生だったんだ。
ぶっきらぼうでやる気なさげで、なんで教師やってるのって感じ…。
山瀬は、理解してるのかしてないのかを生徒に確認することもせず、黒板にひたすら数字を書き続ける。
「とにかく書いて。あとで説明するから」
みんなして必死にノートに書き取る。
今はタブレットを使うIT時代なのに、なんて古典的な!
(もうワケわかんない。何? この数式…見たこともないし!)
渓の頭が混乱しそうになったとき。
書くのがピタリと止んで、山瀬は口頭で話しながら説明し始めた。
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