いるか座の吐息

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1人で体育館に戻ると…。 山センや菜月、1年3組のメンバーが集まっていた。 (みんな来てくれたんだ。朝早いのにありがとう…) じーん、と感動する。 「マジックペンもらってきたよー」 「ありがとう」 菜月と話していた山センが、こちらをチラッと見た。 「あれ…深雪。ここどうしたの?」 菜月が、私の胸元を指差す。 「ボタン外れてるよ」 制服ブレザーの金ボタンが、ボタンホールにハマっていなかった。   ハメながら、私はクスッと笑う。 「ああ、さっき。渓に抱きつかれたからかな…」 「「ええ? 渓が?」」 菜月と心咲が驚く。 「うん」 「イメージわかないんだけど」 「ちょっとナイーブになってたみたいでね。クールに見えて、意外と甘えんぼなのかも」 「なにそれ、最強のギャップじゃん」 「可愛すぎない、それ」 鼻息荒く話す2人。 「…で? 当の渓は?」 「…職員室にいる。……吉岡と一緒に」 「それってヤバくない?」 「抱きついてるかもよ」 「渓と吉岡、どっちから?」 「両方!!」 「キャー恋が生まれちゃう!」 菜月も心咲も、私が吉岡を好きだなんてみじんも思っていない。 それほど私は、巧妙に恋心を隠している。 抱き合っている…。 可能性は考えられる。 胸が締め付けられる思いがする…。 私は追い払うように、無理やり笑みを浮かべる。 山瀬が近づいてきた。 「……吉岡は?」 「え? あ、今職員室に……」 「笹の葉が予想以上に多くなってるけど、これでいいのか?リーダーはあいつだよな?最終確認しなくていいのか?」 少し不機嫌そうだ。 「呼んできます」 菜月が言う。 「おう。そうしてくれ」 あれ…?と思う。 (私たちの話聞いてたのかな…。まさか、山センが吉岡に嫉妬なんてするはず…ない…よね?) 「なんだよ」 じろじろ見ていた私を、山センがにらみつける。 「いえ、別に」 「お前も損な役割だよな」 「は?」 「もう少し自分に素直になったほうがいいぞ」 「……」 私の吉岡に対する気持ち、なんでバレたの?と思ったけど。 お前も、ってなに? 他に誰かいるの? 素直になったほうがいい…って、それを言うなら。 山セン…あなたも…では。 私のために吉岡を呼びつけた、と思わせようとしているけれど。 コピーを取り終わって戻ってきた渓を、目で追ってましたよね? 渓が高いところに登ろうとしたら、すかさず手を差しのべましたよね? 渓が笑っているのを見て……かすかに微笑んでいましたよね? もしかして、渓のことが好き……? まさか、そんなわけないか。 それだけでなく、車で飲食物を大量に買いだしに行って。 「皆には俺からって言うなよ。匿名希望で」 と言って、私に託していった。 全部、ポケットマネー…だよね。 山センもなかなか、不器用な人だと思う…。
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