いるか座の吐息

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約束どおり、私は打ち上げを夏休みにセッティングした。 「夏祭り+花火」で打ち上げなんて我ながらいいセンスだと自負する。 浴衣を着てほしい、と言うと。 渓は言葉を濁した。 昔キモイ男がいて…と聞いただけで、ハッと思い当たる。 渓の男性不信…。そして井上くんに抱きつかれて逃げ出した理由がようやくわかった。 当日現れた渓は、ボーイッシュでまるで男の子みたいだ。 本当は私たちのように、浴衣を着ておしゃれをしたかったかもしれないのに…。 可愛い、ってだけで羨んではいけないよね。 苦労は他人にはわからないものだから。  吉岡は、どことなく緊張している。 …今夜、告白するつもりなのかな。 それだったら2人きりにさせてあげないと。で、根本くんを無理やりひきはがしにかかった。 「なんだよ、小津ー。忘れ物なんてないじゃんよー」 「り、りんごあめ!こっちのお店のほうがおいしいんだって!ネットで見た!」 「まじでー。ひゃっほ~いっ!」 根本くんがそのお店に突撃する。 1人残された私は、空を仰いだ。 うまくいってほしいのか、ほしくないのか、わからなくなってきた。 でも、渓は…きっと山瀬先生が好き。 吉岡に告白されて、うまく自分の気持ちに折り合いがつけられるのかな。 教師との恋愛なんて、そう簡単なものじゃないから。 障害だらけで嫌になったとき、近くにいる同級生に目がいく、ってこともありえるよね。 「小津、うまい! りんごあめ、うまいよ!」 「よかったねぇ」 目を細めて、根本くんを眺める。 世の中がみんな根本くんみたいに単純な人ばかりならもっと、スムーズにいきそうだけどね。 「そろそろ行こうか」 根本くんがモジモジと上目遣いでこちらを見る。 「う、うん。なあ小津。俺と2人になりたかった理由って、もしかして俺のこと」 「全然ちがうから」 私は即座に否定した。 2人を見つけたときは、 渓が頭を下げて、吉岡に謝っているところだった。 (何かあったのかな……) 「……鎌田! 俺…!」 吉岡が渓のほうへ近づく。 「俺の本当の……!」 「あっ! いたいた!」 「花火もうすぐ始まるよー」 皆がガヤガヤとやってきた。 「吉岡くん、なに?」 「あ。いや……いいや」 「俺の本当の…。って、なに?」 渓は、じっと見る。 「…あー、と。俺の本当の…名前は、そうた。颯汰だよ……」 渓は驚く。 「ごめんなさい……名前間違えるなんて」 「いや……」 吉岡が落ち着かない様子で、腕をさする。 「あ、深雪!」 渓が振り返って私を見つけた。 「忘れ物見つかった?」 「う、うん」 渓の後ろをちらっと見ると。 オデコを押さえて、深いため息をついている吉岡がいた。 (俺の本当の彼女になってくれ、って言いたかったんじゃないかな。告白失敗。しかも下の名前も間違えられてたって…) ちょっと、というか、かなり気の毒…。
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