いるか座の吐息

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「あっちが穴場のスポットらしいよ」 増子さん先導で、ぞろぞろと歩いて大きな広場のようなところに出る。 大勢の人たちが「わあ」「キレイ!」と、 スマホ片手に、歓声をあげている。 傍らの渓を見ると、大きな瞳の中にキラキラと花火が映っていた。 「きれい」  そんな渓の横顔を、吉岡は見ている。 「流れ星みたいだな」 吉岡が言って、渓がパッと振り向いた。 「そうなの!流れ星のなかでも特に明るいものを火球っていうんだって」 興奮して話し出す渓に、吉岡がたじたじになっている。 「火球って、めったに見られないらしいよ。流れ星といえばペルセウス座流星群だけど……。この場所から見られるのかな……」 「今夜は明るすぎるかもな。……また明日にでもここに」 「吉岡くんのシュートも火球みたいだった」 「え?」 「カッコよかった、って言おうと思ってたんだ。ね、深雪?」 いきなり、会話をふられた私は、 「!!」 言葉が思い付かない。 吉岡を見て、ほんの少しためらいつつも。 「うん、カッコよかった」とうなずいた。 (本当に…カッコいいんだよ、吉岡は) 吉岡は「ありがと…」と言う。 私に言われても嬉しくなさそう…で、 地味に傷つく…。 吉岡はそのまま根本くんのほうに方向を変えて、歩いて行った。 デートに誘おうとしたのにスルーされたから…ふてくされてるのかも。 (渓って、案外と…天然なのかな) 「…深雪? なんか元気ない?」 「そんなことないよ。花火きれいだなーって思ってたとこ」 慌てて答える。 「今夜は誘ってくれてありがとう」 「約束だったから」 吉岡との約束…。 あーあ、想いはみんな一方通行。 思い通りにいかないことだらけだ。 「フフッ。みんな…幸せになれたらいいねー」 うーん、と伸びをする。 「じゃあ、次のスターマインで願いごとしない? 流れ星とは違って長いから、たくさんお願いできるよ」 「いいねー」 「きたきた!」 スターマインが始まった。 迫力ある夜空の饗宴だ。 「わ、きれい」 「ほら。見とれてないでお願いしなきゃ」 渓に言われて、目をつむって願う。 …アルタイルのそばには、いるか座という菱形の星座があるらしい。 人助けした御礼に、空にあげてもらったらしいけれど、メジャーでない上に、目立たない星座だ。 アルタイルは彦星、ベガは織姫。 そうすると、いるかは2人のカップルを見守る、善良の生き物じゃないかな。 …そう。私はきっと…いるか座だ。 (2人が付き合うようになったときに、心から祝福ができますように) …そう、願った。
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