アンドロメダの誤解

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「山瀬先生のパネルは出来上がりましたか?」 「おー…」 「天体に興味を持ってもらえるような、わかりやすい展示にして下さいね」 「おー…」 「聞いてますか?」 天文部の生徒にやりこめられている。 部長の須藤瑛茉がいないから、副部長らしき女の子がのびのびと仕切っている。 渓を見ると、ちょっと不機嫌そうだ。 自分の好きな相手が、他の女の子と楽しそうに話してるからかな…。 黙って下を向いて、ちくちく縫っている。 「渓は何色のお守りにする?」 私は気分転換になるように、聞いてみた。 「……。ピンク」 (おぉ!) まさか恋愛とは!と私は心の中で興奮する。 「深雪もピンクだよね」 渓は私の方を振り向いて、じっ…と見つめてきた。 「…え」 「吉岡くんに渡すんでしょ」 ガタッ。 私は思わず、席を立ち上がる。 「…………」 心臓がバクバクと嫌な音を立てる。 渓が驚愕の表情をしている。 「…………」 私は何も言えずに、そのまま教室から飛び出してしまった。 そのまま歩いて…階段の下段に座り、頭を抱える。 なんで渓にはわかっちゃったんだろう…。 あんなに隠していたのに。 「深雪……」 気がつくと、渓が前にいる。 夕日が逆行になり、黒い影に見える。 「好きとかじゃないから!勝手なこと言わないでほしい!」 ムキになって言ってしまう。 (ああ…大人げない) 「…うん、ごめんなさい」 顔を上げると、渓が悲しそうに私を見つめている。 「だからもし、吉岡が渓のことを好きになったとしても、私に気にせずに付き合ってほしいんだ」 これは、吉岡が渓を好きだ、と言っているようなものだと言ってから気がつく。 吉岡、ごめん。 自分の口から告白…したかったよね。 でも鈍感で天然な渓のことだから。 こうハッキリ言わないと、気づけないと思うの。 「……」 「吉岡のこと好きなのに、私に悪いとか思って、告白断ったりしたら絶交だからね!」 「…うん、わかった」 私は渓に近づいて、抱きしめる。 「いきなり怒ってごめん」 「私こそ…ごめん。…嫌いにならないで」 「ならないってば」 渓は何にも悪くない。 吉岡の好意に気づけないくせに、私の…隠していた想いに…気づいた渓が、ほんの少し…疎ましく思ってしまっただけ。 それに…。 簡単に吉岡の気持ちをつかんだ渓に、 今さらながら強い嫉妬心が生まれた。 (なんて醜いんだろう…私) 自己嫌悪でいっぱいになりながら、渓を強く抱きしめた。
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