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言ってる意味が…よくわからない。
「呼び出して…真っ暗な中でキスしてもらえばいいよ」
「…なにそれ……」
「体育館倉庫まで来て。吉岡も呼び出してあげるから」
「……」
「絶対来てね」
環菜は長い髪をなびかせて去っていった。
(何を企んでるの…)
吉岡とキス…。
アホらしい、非現実的だ、と思いつつ。
暗い中なら私だとわからない。
それなら…と思ってしまう自分がいる。
バカバカバカバカ!
冷静になりなさい!
そう…思いながらも、体育館倉庫の場所を確かめようとする私がいて…。
……スマホが鳴る。
「はい…あ、今からちょっと用があって……3人で回ってて。うん、またあとで合流しよう」
私はフラフラと、人混みをかきわけて目的地に向かう。
まるで操られたように。
そして、走馬灯のごとく、吉岡との思い出が頭の中に蘇る。
キスしてもらったら…踏ん切りがつくのかな……。
この長い長い片想いに。
そんなときだった。
「小津」
……声をかけられたのは。
後ろをゆっくり振り向く。
✕ ✕ ✕
体育館倉庫に着くと、須藤環菜が入り口で待ち構えていた。
「はろはろー。お待ちしてましたー」
手のひらをヒラヒラと揺らす。
うながされて中に入る。
「吉岡のキスにつられて…なんて可愛いよね。ねっ」
環菜が誰かに問いかけると、
「ああ」と野太い男の声がした。
吉岡じゃない、若い男の声…。
ここまでは予想してた。
だけど。
「え、本当にキスしちゃっていいわけ?」
「はつたーいけーん! だよね?」
複数の男がいることは、さすがに思い至らなかった。
ここまでするのか、と。
しかも……。
「深雪っ!」
慌てて、渓が駆け込んでくる。
私は…吉岡のキスにつられたわけじゃない。
罠にかけようとしてた人を助けるつもりだった。
…まさか、それが渓だったなんて。
気づいたときはもう遅い。
ガチャン、と鍵がかけられる。
倉庫は真っ暗になる。
「キャー!!」
渓の声が響いた。
「渓っ!!」
(暗所恐怖症なのに!)
私が向かおうとすると、後ろから男に羽交い締めにされる。
「こんにちはー。可愛いね。暗闇がこわいんでしょ」
「そっちじゃねーつーの。この子だよ、なー。けいちゃんだっけ?」
「よしよーし。可愛がってあげるからね」
「須藤さん!いるんでしょ!こんなこと止めてよ!」
私は叫ぶ。
「さっきの、鎌田の中学の同級生たちにメチャクチャにして、って頼まれちゃったから無理。なんか夏祭りで嫌な思いしたんだって」
「ふざけ、うぐっ」
後ろから口にタオルをまきつけられる。そして後ろの手首にはヒモが結ばれた。
「早くやっちゃお」
「あれ? けいちゃん?」
ピタピタと音がする。
「失神しちゃったみたいだよ、あらま残念。嫌がる姿を激写したかったのにな」
「お前、サイテーだな」
男たちの下世話な会話が聞こえて、吐き気に襲われる。
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