アンドロメダの誤解

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山センは、私に近づくとタオルと後ろで縛られていたヒモを外してくれる。 「来て…くれて……ありがとう」 さっき…。 体育館倉庫に向かうとき。 私に声をかけてきたのは、山センだった。 『天文民俗カフェの、今の当番は誰だ?』と聞こうとしていたらしい。 『ねー先生。私がしばらく戻らなかったら体育館倉庫に様子見にきてくれない?』 『…なんだよそれ』 『須藤環菜に呼び出されたの』 『……』 冗談ぽく言っただけだ。 念のため…言った。 言ってなければ、私たちは今ごろ…どうなってたかな。 私たち…。 ハッとして。 「渓っ!」と駆けつけると。 山センがすでに渓を抱きかかえていた。 心配そうなその横顔。 私は確信した。 山センは、渓が好きなんだ…。 優しくマットに横たわらせる。 「手当てしないと」 私は、ヨロヨロと近づく。 「メガネだって……」 粉々になったメガネを見る。 「いいよ。どうせダテだ」 「報復されない? それに、教師だってバレたら?」 「んなもん、どうだっていい」 山センは、渓の手首に触れて脈をとる。 そして渓の手をとり、自分のオデコに当てた。 まるで神様に祈りを捧げるように。 …と、そのとき。 吉岡がユニフォーム姿で走ってやってきた。 「小津! なんでここに…?」 渓を見て「鎌田?! どうした鎌田?」と横たわる渓のほうに寄っていく。 「山…瀬? 顔…どうしたんだ?」 山瀬の切れた唇と腫れた頬を見て、吉岡が愕然とする。 山センは渓の手を置くと、「後はお前に任せた。よっ」と言いながら立ち上がる。 「お姫様のそばにいてやりな」 そういって、山センは出ていこうとする。 「山センが助けたのに!」 「それは言うなよ」 「……」 「……」 「俺がどっかの学校の生徒を殴ったってバレたら大問題だろ? 仮にも教師なんだから。来たときには片付いてたって…いや、鎌田自身には、吉岡が助けたことにすればいい」 「……」 「それくらいの駆け引きはしろよ。好きな女のために」 「っ!」 吉岡が息をのむ。
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