アンドロメダの誤解

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(それは違う、それは違うよ。山セン!) 頭ではそう思っているのに…。 不器用なところが似ている私たちは、 本当に好きだからこそ、身をひく恋愛もあるってこと、本能的にわかってるんだ。 「うーん…」 渓がもぞもぞと動きだす。 山センはそれを見届けると、静かにその場から立ち去った。 「鎌田?」 吉岡がしっかりした口調で問いかける。 渓がおそるおそる、まぶたを開ける。 男たちに襲われていたのを思い出したらしく「…っ!」と身構える。 「もう大丈夫だから」 「……よ、吉岡くん…?」 吉岡が渓を抱き起こして、ぎゅうっと抱きしめる 「深雪は?」 「無事だよ」 「良かった…」 「……」 「吉岡くんがあいつらを?…」 「……。…そうだ。俺が……倒してやった」 「ありがとう」 渓の顔がほころぶ。 「言ってただろ。俺が、鎌田を…渓を守るって」 宙に浮いていた渓の腕が、吉岡の背中に回される。 吊り橋効果。 …人間は、自分がピンチのときに助けてくれた人がカッコよく見えて、その人のことを好きになるらしい。 駆けつけてくれて悪者を倒してくれた男の子…。 渓は吉岡を、好きになるだろう。 オリエンテーションのときに助けてくれた山センを好きになったように…。 絶世の美女アンドロメダは、絶体絶命のピンチに、勇者ペルセウスに助けられ…そして結婚して幸せに暮らした。 この季節の秋の夜空は、このストーリーに出てくる星たちがそろって輝いているらしい。 渓の…展示に書いてあった。 私の展示の「人魚」……。 結局、妖怪より童話の「人魚姫」に重きを置いてしまったけれど。 人魚姫は…王子様を助けたのは自分と言い出せず、最後には海の泡になって消えてしまう。 自分が助けたのに。声も出せないままに。 他の女性と結ばれるのを見ながら…。 山セン、本当に誤解されたままでいいの? ペルセウスは自分だと…言い出さなくてよかったの…? 今もなお、抱き合う2人を置いて、 私もその場を後にした。 これでやっと…吹っ切れそうだ、と 片想いにケリがつけられたのに。 気持ちはスッキリ晴れないまま……。
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