私のフォーマルハウト

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(プラネタリウムの展示パネル!) 「これと同じような展示、隣町のプラネタリウムのパネルで見ましたけど……」 我ながら可愛くない言い方だと思う。 だけど……山センだって、さっき私のこと……。 顔を上げると、山センが絶句していた。 言葉が出ないみたいで、口をパクパクさせている。 「…行ったのか? あそこに……」 「……は…い」 「…………」 顎に手を置いて、何かを考えこんでいる。 ああ…元の彼女さんの想い出があるから。 ショックを受けているんだ。 渓はそれにショックを受ける。 (私は何も知りませんって言ったほうがいいのかな…でもそれを言ったら、怪しいよね。さらに傷つけることにならないかな) でも、その後の山センは予想外の反応をした。 「そうか、行ったのか。ククク……」 と笑いだす。 「???」 「そんなに似てたか? パネルの展示内容」 「…は…い」 それを聞くと、山センは目尻を下げて嬉しそうに微笑んだ。 その慈愛に満ちた瞳を見て、今度は渓が絶句する番だった。 「………」 「ありがとな」 山センは、そう言ってきびすを返して教室から出ていった。 元カノのつばささんとの想い出のプラネタリウムを、あんな笑顔で……。 渓のまぶたが熱くなる。 悔しい悔しい悔しい…。 あんな風に優しそうに微笑む山セン、見たことがない。 (私、いますごく嫉妬してる…) つばささんとのこと。 きっと山センのなかでは、美化されて宝石のような想い出になっているんだ。 明日久しぶりにプラネタリウムに行こうと思っていた渓だったが。 (もう……行かない!) 自分の白い模造紙を巻きはじめる。 「あれ、渓。帰るの?」 深雪が聞いてきた。 「う、うん。今日はもう帰る」 「そう。私はもう少しやっていくね」 コクンとうなずいて、バイバイと言って別れる。 外はすっかり暗くなっていた。 校庭ではサッカーの練習をしている……男子がいて。 こちらの視線に気がついて振り向く。 吉岡だ。 渓の元にやってくる。 「遅いね」 「文化祭の手伝い、してた」 「小津の?」 「…うん」 渓は下を向く。 「なんかあった?」 「え?」 「表情がかたいから」 「そうかな」 「辛いことあったら、俺聞くし」 「え?」 「せっかく、席が隣同士だったんだから。そのよしみで」 「……」 渓はなんだかこそばゆくなって離れる。 「小津に言えないことがあるなら、俺に言えばいいよ」 「あ…りがと…う」 (もしかして吉岡くん、私のこと好き?…なんてね) 吉岡の優しさに甘えそうになる自分を戒める。 ジージージージーと秋の虫が鳴き始める。 「…じゃあまたね」 「おう」 渓は歩いていった。
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