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展示パネルはあらかた完成した。
しかし…。
妖怪やら天文を特集しており、かなりマイナーな空間になってしまっている……。
渓自身も(うーん、これはなかなか…厳しいかも)と思い始めたところ。
「こんなんじゃ誰も来ないよ」という声があがった。
ウンウンと同意したいところだが、言い出したのは須藤瑛茉と環菜の2人…。
相変わらず、何もしないのに口だけ出してくる…。
「願い事書きたーい!」と環菜の意見から、民俗学研究会と天文部は共同で、「願いごと星守り」を作成することになった。
七夕飾りを引きずってるのかな、と一瞬思ったが。きっかけはどうであれ、良い案だとは思う。
小学生のころは手芸クラブにいたから、細かい作業は得意なほうだし。
深雪と話しながら作業するのも楽しい。
「最近、バイトどう?」
「う…ん」
深雪に聞かれて、渓は言いよどむ。
最近、姉の勤務先のパティスリーアサダにもミカンの缶詰を卸していることを知って驚いているところだ。
フルーツサンドでよく使われているらしい。
それと…。みんな仲良しだと思っていたパートのおばちゃんたちが、実はうっすら派閥化していることにも気付いた…。はあ…。
どこにもあるんだな、人間関係のいざこざは。
「あ! 山セン!」
思わずビクッとしてしまう。
「おー。例のお守りか」
山センがフラリとやってきて。
佐藤さんとしばらく楽しそうに会話した後…。
「タヌキの袋か?」
いきなり話しかけられて、
動揺した渓は、あからさまにフンとそっぽを向く。
(何よ、いきなり。でも…ちょっと。嬉しいけれど)
チラッと顔を上げると、山センと視線が合う。
意外にも、真剣な瞳をしている。
(ずっと私を見てたの…?)
「山センにはこれ。試作品をあげます」
深雪の声が聞こえて、渓はパッと視線をそらす。
「この色は?」
「諸願成就。なんでもOK。ただし叶うまで中を開けちゃダメです!」
「フーン」
と指先で持って、眺めまわす。
「もらっとくわ」
山センは嬉しそうに笑う。
(あ……)
渓はひらめく。
私もピンクの袋あげたら、間接的に『あなたが好き』って気づいてもらえるんじゃないかな。
胸がドキドキしてくる。
(それって告白だよね…? 私、山センに告白するの?)
山センは他の女子たちと楽しげに会話し始めた。
見ていて、気持ちは良くない。
……少しでも、彼女たちよりも私は特別って思ってもらえたら……。
深雪が「渓は何色の御守りにするの?」と聞いてきたとき。
渓は迷いながらも「……ピンク」と答えた。
「深雪もピンクだよね。…吉岡くんにあげるんでしょ」
何の考えもなく、ポロっと言っただけだった。
深雪が席を立って駆け出して……。
失言したことに気がつく。
(どうしよう…!)
渓は急いで、後を追った。
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