私のフォーマルハウト

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教室から飛び出した深雪は、 西棟の階段の下段に座っていた。 …頭を抱えるその様子を見て、 (とんでもないことを言ってしまった……) 渓は後悔の気持ちでいっぱいになる。 「深雪……」 深雪はパッと顔を上げると、 「好きとかじゃないから!勝手なこと言わないでほしい!」 …深雪がこんなに激昂するの、初めて見た気がする。 「…うん、ごめんなさい」 渓は、こぼれそうになる涙を必死でこらえて。絞り出してつぶやいた。 「だからもし、吉岡が渓のことを好きになったとしても、私に気にせずに付き合ってほしいんだ」 「…………」 「吉岡のこと好きなのに、私に悪いとか思って、告白断ったりしたら絶交だからね!」 (それって…まるで…) 吉岡くんと私が両想いになる、って決まってるみたいな言い方だ。 いろいろ…いろいろ…言いたかったけれど。 「…うん、わかった」と渓は返す。 深雪は渓に近づいて、抱きしめた。 「いきなり怒ってごめん」 「私こそ…ごめん。…嫌いにならないで」 「ならないってば」 深雪……に嫌われたくない。 これこそが私の本音だ。 深雪は私の恩人であり、 そしてやっとできた、本物の友人だから。 抱き締められながら、渓は心に決めた。 私が好きなのは山センだよ。 ピンクの御守りあげたいのは山センなんだよ。 …既成事実を作ろう。 告白する。 結果はどうであれ、私は山センが好きなんだよ、って。 深雪を安心させてあげたいから。 願いごと星守りのピンク色を2つ、急ピッチで仕上げた。 山センへのメッセージは、何も入れないことにした。 その代わり、お揃いで黄色い星マークを右下につける。 いつもこんな…変な態度とっているけれど…実は好きなんだ、って……。 どんな顔するかな。 「タヌキの袋」って言われてもいいから受け取ってほしい。 渓は、ぎゅっと御守りを胸の前で握りしめた。 職員室に向かうと、山センの姿はなかった。 「いない……」 キョロキョロしていると。 「誰、さがしてるんだ?」 後ろから声が降ってきた。 「!!!」 …山センがいた。 「清田先生か? 腰痛が悪化して今日は早々に帰っ」 「山セン、いや山瀬先生に話があって」 「…………なんだ?」 「ちょっとここじゃ話せません」 「進路相談室に行くか……?」 渓はふるふる…と首を横に振る。 「渡したいものがあるんです」
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