私のフォーマルハウト

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「これ……」 渓は御守り袋を差し出した。 山センが、動きを止める。 …無言。 渓は顔があげられないまま、 「ピンクの意味…わかりますよね?」 と聞いた。 「べ、別に…どうこうなりたいってわけじゃないから。ただ……伝えたかっただけ、です」 「…ありがとう」 山センが手をのばして、御守りを受け取った。 「!!!」 渓がパッと顔をあげる。 瞳が、嬉しさでキラキラと輝いた。 「俺は……この…気持ちに答えることはできない。鎌田だけじゃないよ。生徒はみな生徒としか思えないからさ」 「……」 予想通りの答えだ。 「嬉しかったよ」 山センはそういって微笑んだ。 嬉しかった…って、なぜ過去形なの? 「…っ! 私を、天文部に入部させてくれませんか?」  引き下がれない、という気持ちに襲われて渓は再び聞いてみる。 (お願い。いいよ、って言って!) 「……今は人数が足りてる」 山瀬がサッと目をそらせる。 「……来年は? 来年ならいいの?」 山センは逡巡した後、 「鎌田は天文部なんて地味なところより、華やかな部活が合ってるよ」 と無理に微笑んでみせる。 (華やかな部活ってなに? 勝手に決めつけないでよ…) 「……でも、好きなんです!」 星が。 天体が。 ……山セン、あなたのことが。 「一時期の気持ちに流されないで、周りをよく見たほうがいい。お前が思う俺と、本来の俺とは、全然違う」 まるで俺のことを好きになるな、と言わんばかりだ。 さっきは…ありがとう、と喜んでくれたのに。 「……先生には忘れられない人がいるんですか?」 「……なんで」 「髪の長い女の人に、聞きました」 「ノリコが言ってたのは、やっぱり鎌田のことだったか。女を弄ぶひどい男だって言ってただろ?」 「……もういい!」 そんなこと聞きたくない! 「私は先生に弄ばれてもいいんです」 「なっ」 山センが慌てて、あたりを見渡す。 誰もいないことを確認して、あからさまにほっとする。 「山センが好きなのっ!」 「……」 山センが片手で顔を覆う。 「お、お前なぁ。普段の態度とキャラが違いすぎないか?」 だって、好きなんだもん! 渓はずいっと近づくと、山瀬が後ろに下がる。 「……」 「……」 山瀬が口を開いた。 「ハッキリ言う。俺は…」 「……」 「鎌田をそういう目では見られない」 「…………!」 渓の大きな瞳にじわじわと涙がにじむ。 (玉砕覚悟だったけれど、本当にフラれてしまった) 渓はきびすを返して、パタパタと走っていく。 「……クソッ。なんで今、それを言うんだ」 山瀬が小さくつぶやいて、髪をくしゃくしゃとかきむしった。
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