私のフォーマルハウト

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山センに…そっと手を握られる夢をみた。 これは…本当に夢?それとも現実? 意外に、ゴツゴツしている。 黒板にチョークで書いてるときは、細長くて綺麗な指と思っていたけれど。 なんか…あったかくて落ち着くな……。 と思った瞬間、手がスッ…と離れてしまった。 (なんだ。もっと…握っていたかったのに) 「鎌田?」 誰かに話しかけられた気がして。 渓はおそるおそる、まぶたを開ける。 (え?) 「もう大丈夫だから」 「……よ、吉岡くん…?」 吉岡が渓を抱き起こし、そして…抱きしめられた。 ハッとして周りを見渡すと。 渓を襲った男たちはいなくなっていた。 「深雪は?」 「無事だよ」 「良かった…」 「……」 「吉岡くんがあいつらを?…」 「……。…そうだ。俺が……倒してやった」 「ありがとう」 安堵で顔が緩む。 (深雪も無事で良かった) 「言ってただろ。俺が、鎌田を…渓を守るって」 ぎゅうっと抱きしめられて。 思わず渓も反射的に、吉岡の背中に腕を回した。 ずっと寝そべっていたからか、体が冷えていて暖をとりたいのもあった。 吉岡くんがマットに寝かせてくれたのかな。 「……」 「……」 「鎌田、好きだ」 耳元で囁かれる。 「……!」 (深雪いないよね?) 視線を動かすが、誰もいないようだ。 「付き合ってほしいんだ。最初は試しでいい。これからは俺が…鎌田のこと…守りたい」 渓は言葉につまりながらも「考え、させて……」と答える。 「わかった」 吉岡は腕から渓を解放すると、じっ…と見つめた。 渓も見返す。 (カッコいい男の子だなぁ) モデルでもおかしくないような、綺麗な顔をしている。 すると、顔が近づいてきて、渓の頬に軽く何かを押し付けられた。 「え?」 と言ってる間に、また抱きしめられる。 いま、キス…されたんだ。と気がつく。 今までは男の人が気持ち悪いという思いがあったけれど、吉岡のキスは不快ではなかった。 (吉岡くんだから平気だったのかな) 渓は特に抵抗せず、抱きしめられたままでいた…。 しばらく保健室で寝かせてもらい、後夜祭で深雪に会う。 「体調大丈夫?」 「うん」 2人でベンチに腰かける。 しばらく沈黙した後。 「あいつ、良いやつだよ」 深雪は言った。 「それに、吉岡から女の子を好きになったのって渓が初めてじゃないかな……」 「…………」 「あんな危険な奴らの中、1人で飛び込んで…渓を助けたってすごくない? 告白…されたんでしょ?」 「……」 渓は下を向く。 「付き合えばいい。私のこと気にしないでいいから」 深雪はカラッとした笑顔で言った。 「渓のこと守れるのが吉岡、というのと。吉岡の彼女が渓だというのも。私…許せるし、嬉しいんだ。2人が同じように好きだから」 「……」 「ピンクの御守りは人気で、もう在庫なくなったみたいだけど、もし必要なら」 「いらない……」 渓はふるふる…と首を横に振った。 「直接言うから」 「……そう」 深雪が微笑んだ。
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