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『今月7日、愛媛県教育委員会は、教え子の女子生徒とわいせつな行為を行ったとして、県立◯◯中学校の40代男性教諭を懲戒免職しました』
落ち着いた声の男性アナウンサーが、淡々と読み上げる。
それを聞いて、
「は……淫行教師」
華絵がため息まじりに言った。
「いんこう?」
「生徒に淫らなことする教師、ってこと。たまにニュースになるよね」
「…みだら」
渓の頭の中に、
『私は先生に弄ばれてもいいんです!』
山センに言った一言が、ポンと浮かぶ。
(あー……)
まるでみだらなことをして下さい、と言わんばかりのことを言っていたんだ。
うわぁ……なんてことを。
恥ずかしい…。
頭を抱える。
もしあの告白に、山センがOKしていたら、山センは淫行教師になってたのかな。
もし両想いだったとしても…。
何も…行為がなかったとしても。
(山センの立場を全く気にしてなかった。私、自分のことしか…考えてなかった…)
『生徒はみな生徒としか見られない』って、そういう意味だったんだ。
(当たり前だけど。山センは私の何倍も大人なんだな)
渓はぎゅっ、と下唇を噛み締める。
「私の担任は、そんなことなかったけどなぁ」
華絵がポツリとつぶやく。
「……」
「まあ50代後半だったというのもあるけど。山センは……良い先生だったからね」
「山セン?!」
「そう、山セン。ヤマセ先生な」
「ヤマセ?! 山に、瀬をはやみ、の瀬の?」
「ああ、そうだね。山瀬、恒久って書いてツネヒサ。渓、知らなかったっけ?」
「そういえば『今日は山センの命日』って言ってたことが」
「そう…なんよ。私にとっては父親同然だからな。お墓参りには必ず行っとる…」
そう言って、華絵は遠い目をした。
母の実の父親、私のお祖父さんにあたる人は昔の恋人と駆け落ちした。そのため、母は経済的に恵まれず、大学も行けずに就職したのだとか。
お祖母さんも入退院を繰り返して、私が赤ちゃんの頃に死んでしまったというけれど。
そんな母親を支えていた恩人の先生…。
話を聞いたことがあったのに。
なんで私…今まで忘れていたんだろう。
「山センは天文学が好きでな。退職後は、プラネタリウムでボランティアやっとったんよ」
天文学…山瀬…プラネタリウム……。
何かが……。
どんどん、どんどん。
つながっていく……。
「その人に、朔って…いう家族いなかった?」
「うーん? いたかもしれん…」
「えっ!本当に?」
「あ、ごめん。会社からの電話だ」
華絵は車を路肩に止めると、通話を始めた。
これ以上は聞き出せそうになかったが、渓の気持ちは、興奮や期待で膨れ上がっていた。
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