シリウスを追いかけて

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その山瀬恒久先生が、もし山センの親戚だったら…。 山センと、話の糸口がつかめるかもしれない。また話ができるようになるかも! プラネタリウムに行かなきゃ! 行って確認したい! 渓はスマホを取り出して、急いで確認する。 今週は…。 平日夜は迎えがあるため出歩けなくて、日曜日は深雪たちと遊びに行くから、土曜日しかない。 その日は16時までバイトがあるが、プラネタリウムの演目を見ると、17時30分からのイブニングシアターというのがある。 しかも今月のテーマは「シリウス」だ。 絶対行こう! と、ウキウキしていた渓だったが。 ……現実は、思うようにいかなかった…。 土曜日。 いつものように渓がラインで缶詰を確認しながら段ボールにつめていると。 「アンタの顔なんか二度と見たくない!!こんなとこ辞めてやるわよっ!! 」 声がしたほうを振り返ると、パートの高畑さんが向井さん相手に、エプロンをぶつけるところだった。 「あーあ、ついに」 「高畑さん、キレちゃったね」 ひそひそと会話がとびかう。 パートのおばさんの中で、高畑派と向井派で派閥があることに気がついていたが。 渓は見て見ぬふりをしていた。 高畑さんは神経質で完璧主義で、いちいち細かい。渓自身もやりにくいと感じていた。 そして何より、今みたいに突然キレたりする。感情的なところが怖かった。 高畑さんの腰巾着たちが、ぞろぞろと後をついていく。 中には泣き出しそうな人もいる…。 巻き込まれてかわいそうに。 「ちょっと待って。高畑さんがやってた配達はどうするの?」 「「……」」 「うち、今日これから息子が帰省するのよ」 「私は夫に許可とらないと…」 エプロンを投げつけられていた、向井さんがやってくる。 「仕方ない、私がやるわ」となんだか嬉しそうに言った。 「運転は私がやるとして、バンの後ろから缶詰取り出してくれるアシスタントが必要ね…。ねえ、鎌ちゃん。あなたやらない?」 「えっ?」 傍観者だったはずなのに。 突然、スポットライトをあびた渓は、ぶるりと震えた。 「あー、鎌ちゃんなら適役ねー」 「若いしぃー」 …………。 出た…。 若い、を理由にしてなすりつけようとする、おばさんあるある。 しかも向井さんはパートを束ねるボスで、逆らったらきっと。高畑さんみたいな運命をたどるだろう。 「…わかりました」 というわけで、今日のプラネタリウムは行けないことが決定した。 仕方ない、次の日曜日にでも。 配達用の白いバンに乗る。 「配達はじめてだよね」 「はい」 「私たちが行くのは、主に洋菓子屋さん。3店舗ね。だから楽だよ。あとはスーパーもあるけどこれは営業がやるから」 …洋菓子屋さん? まさか…。 「最初に行くのは、大川ケーキ店、洋菓子ヒマワリ、そして…パティスリーアサダ」 (パティスリーアサダ?!) 渓は言葉が出なくなった。
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