シリウスを追いかけて

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よりにもよって。 姉の澪が働く店に行くなんて…! 「もしや、緊張してる?」 急に黙った渓を、向井さんが心配してくれる。 「…はい」 「あはは!大丈夫よォ。みんな通る道なんだから」 バシィ!と肩をはたかれる。 「……(痛い……)」 2店舗は順調に配達できたが。 それぞれの店の担当者に、向井さんが困り顔で高畑さんが辞めた経緯を伝えるため、通常より時間が遅くなる。 「次はパティスリーアサダ。最後の店ね。時間大丈夫?」 「…はい」 すでに19時に時計の針がまわるところだ。さすがに、母親にLINEで連絡はしておいた。 パティスリーアサダの看板がかかった、瀟洒な店が見えた。トリコロールでフランスっぽい。 当初より減ったとはいえ、まだ客の入りは多い。 裏の勝手口の前に、車をつける。 お店の人が、何人かバラバラと出てきた。 渓は急いでマスクをつける。 …みんな男ばかりで、姉の姿はないようだ。 1人、やたら線が細くイケメンといっていい部類の男性がいる。 (あの人が一番、パティシエっぽい…) 「遠藤!」と店の中から呼ばれて、急いで入っていく。 (ふーん、遠藤っていうんだ) 「おー向井ちゃーん」 チャラチャラした遊び人みたいな中年男性がやってきた。 渓のほうをチラッと見る。 「あらー浅田さーん! 聞いて聞いて。ちょっと大変なことがあってね」 3回目の…向井さん語りが始まった。 「そこに置いておいて」 店の人に言われて、 「…ハイ」 渓は運ぶ。そして、ため息をつきながら店の表側に回った。 (忙しそうな店だ…) 姉の澪はどちらかというと、おっとりゆっくり…タイプ。 こんなスピード命のオトコの職場で、テキパキやっていけるのだろうか。  浅田という…たぶんオーナーのなりからして、受け付けない。 そんなことをぼんやり考えていると、 「あら」と声をかけられた。 振り向いて、 「……!」 顔を見て、渓は目を見開いた。 そこにいたのは。 高校の周りをうろついていた、山センのストーカー。いや、つばささんの友人の……。 たぶんノリコ…という人。 山センがそう、呼んでいた…。 腰までの長い髪は切られて、肩の長さになっていた。 「こんばんは。朔の…生徒よね?」 「…はい」 「あの朝はごめんなさい」 「いえ」 「いつも朔がお世話になってるわね」 なんかこの言い方って…。 自分の…身内に対して言う言葉みたい。 「……」 (なんかヤダ…) 渓は憮然とする。 「私こう見えて弁護士事務所でパラリーガルしてるのね。朔が教え子のことで…弁護士の先生を紹介してくれ、ってこのあいだ、私を訪問してきたの」 (え?……) 「教え子?誰のこと…ですか?」 「これ以上はごめんなさいね。守秘義務で教えられないんだけど」 (いったい誰のこと…?) 胸がドキンとなる。 「いったい何があったんですか?」 「だから言えない、って」 「……」 渓がグッと声を漏らす。 「うふふふ。仕方ないわね。ヒント出すけれど。クラスで、いや他のクラスかな?今、長期休みの子いない?」 渓は首をかしげる。 …が、1人いることに気づく。 (もしかして…)
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