1st

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1st

無心になってボールを打ち返す。 左右に飛んでいくボールを追いかけてまた打つ。 この単純な動きが気持ちをリセットしてくれる。 体を動かしていると押しつぶされそうになる自分の気持ちから逃げられる。 いや、逃げていては駄目なのだがそれでもまだ前に進む勇気が出ない。 もともとテニスは2人か4人で行うスポーツだが、このコートは1人でも練習できる壁打ち専用のコートだ。壁にはテニスコートと同じような線が引かれており、そこへボールを打ち込む。 「いたっ」 ストレスを発散させるように強く打ち込んだボールが直撃した。 ボールが転がっていく。 もう取りに行く気力が無くなってきた。 じっとボールを眺めていると視界が歪み始めた。 ぼんやりとした視界がはっきりとした時、何かが頬を伝っていく。 「ちゃんと前に進まなきゃ」 涙で洗い流すように目をこすり、ただボールを眺めながら動くことができないでいた。 ボールを取りに行く1歩ですら進めない。 「もう帰ろう」 少しだけ気晴らしにと思っていたのに大分時間が過ぎていたようだ。 「蒼ちゃん?」 夕陽の逆光でよく見えないけれど、どこかで自分の名前を呼ばれた。 笑いながらコートに近づいてきたのは、国枝コーチだった。 「珍しいね、日曜日に練習なんて」 「いろいろと考え事をしていると頭がもやもやしてきたので気晴らしに運動しに来たんですよ」
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