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「ちょっと良いですか? あなたは神を信じますか?」
背後からそんな声が聴こえてきたが気にせず進んだ。最近、暑いからアレな人も湧いて出てくるのだろう。壺を売りたくなったり、本を売りたくなったり、便座を売りたくなったりするのだろう。
全ては暑さのせい、という事にしておけば良い気がする。暑すぎて思考が雑になっているのは否めないが、脳が融けて耳辺りから出てきそうにも思える。
「そこのあなた! あなたに訊いているのですヨ?」
アレな人によるターゲッティング変更があった様だ、お気の毒に。それにしても暑い。この先のコンビニで水とアイスを買おうと固く心に誓った。
「あなた! さっきから私が声を掛けているのに!」
目の前にアレな人が現れた。どうしますか?
①逃げる。②無視する。③通報する。……③1択だ。
「あ、もしもし? 警察ですか? 今、不審者に付きまとわれているんですが……」
「躊躇無く通報するの止めて下さい!」
「──駅の南の通りです。あの、『小粋庵』って蕎麦屋の辺りの…はい、そうです。お願いします」
電話を切ると同時に歩くスピードを速めた。警察が来るまで時間を稼がねば!
「あの、ちょっと、誤解です! 誤解! 壺を売り付けようだとか思ってないですよ! ちょっとお話をしようとアプローチしただけですよ? 無視しないで!」
アレな人が前方に回り込んできた。逃げられない! アレな人はこの暑い中ダッシュしたらしく、顔中に汗がだらだらと流れている。元気だなあ。
「何で感心したように頷いているんですか!?」
「元気だなあと」
「……素直に話を聴いてくれれば私もこんな事をせずに済んだのですが?」
アレな人がジト目でこちらを見てくる。
「分かりました。話を聴きましょう。その間に警察が来るでしょうから?」
「……」
「聴かなくて良いならこちらは構いませんが?」
アレな人は深々とため息を吐いてからこちらにむきなおった。
「あなたは神を信じますか?」
「神によります」
「……」
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