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02
料理を食べたらネコになる?
シエルには意味がわからなかったが、町医者が彼女に向かって説明を始めた。
どうやら数日前に、この町の住民たちは突然ネコになってしまったらしい。
そのせいで皆、何かの呪いかと恐れ、家に閉じこもってしまったようだ。
今はなんとかなっているが、一ヶ月に一度来てくれる商人から物資を買わないと町はやってけない。
だが商人がネコになった住民たちの姿を見て、逃げてしまう可能性もあるし、なにより王都にでも報告されたら町の人間らを処分しにくるかもしれない。
誰かがなんとかしなければ――そう思った町医者は、ネコになってしまった原因を調べ始め、それが井戸の水にあるとわかった。
水を調べた結果、何者かが井戸に、ネコになってしまう薬を投げ込んだのだと。
「じゃあ、このスープは食べられないの!?」
「そっちの心配かよ……。まあ、安心しろ、シエル。パンのほうはこの町で作ったもんじゃないから、食ってもネコにはならねぇ」
「そうじゃよ。安心して食べなさい。ただしパンだけな」
町の事情を聞き、出来立てのスープを眺めながらパンを食べるシエル。
そんな彼女とは違い、スープを食器にうつして食べ始めたグラント、町医者の老ネコや子どものネコ。
こんなの新手の拷問だとシエルがブツブツ呟いていると、突然、子どものネコが声を張り上げた。
「ボクには誰がやったかわかってる! あいつだよ! 町外れに住み着いた変な錬金術師だよ!」
子どものネコは、数週間前に町へやってきた錬金術師がやったのだと叫んだ。
よそ者はろくなことをしない。
今までだって何か問題があるときは町の外の奴が原因だったと、祖父である町医者の老ネコに言い続けていた。
だが、老ネコは証拠もないのに疑うものではないと、孫を注意した。
納得がいかない子どものネコは、食事中だというのに家を飛び出して行ってしまう。
「あのー、いいんですか? あの子のこと追いかけなくて」
シエルが訊ねると、老ネコは申し訳なさそうに俯き、夜になれば戻るだろうから心配はいらないと答えた。
一緒に住んでいる者が言うのだからそうなのだろうが、シエルは出て行った子どものネコが気になっていた。
それに、子どものネコが口にした町外れに住み着いた錬金術師の存在も。
「それでじいさん。ネコになっちまうのが薬のせいなら、それを直す薬は作れねぇのか? あんた医者なんだろ?」
「薬の成分を調べたところ、ネコ化を直す薬を作ることは可能だ」
シエルがパンを頬張りながら考え込んでいる横では、グラントが老ネコと話をしていた。
二人の――いや、この場合はネコだから二匹か?
ともかくその会話を聞くに、ネコの姿から人の姿に戻れる薬を作ることはできるようだった。
だが薬が作れるのに、いまだにグラントたちがネコの姿でいる理由をシエルは知る。
「この薬にはとても貴重な材料が必要なんじゃよ」
「貴重な材料? なんだよ、それは?」
町医者の老ネコは、その貴重な材料について話した。
その材料とは、“錬金鳥の羽”。
錬金鳥とは金属の羽を持つというめずらしい鳥で、凶暴な魔獣がいる南の大陸に生息すると言われている。
その南の大陸の場所は、この町から馬を使って港へと向かい、それから船で海を渡って、最短距離を移動しても約三週間はかかるらしい。
さらには南の大陸で錬金鳥を捕まえて羽を手に入れて、それからようやく薬が作れるという、とても時間がかかり、長い工程をこなさなければいけない。
今すぐというわけにはいかない――というのが現状だった。
「くそッ! じゃあ、すぐになんとかはできねぇのか……」
肩を落とすグラント。
町医者の老ネコも彼と同じように沈んだ表情をする中、シエルが椅子から立ち上がり、家を出ようとする。
彼らがどこへ行くつもりだと声をかけると、シエルは答えた。
出て行った子どものネコが心配だから、探してくると。
シエルの言葉を聞いたグラントたちも、そうだなと言い、皆で手分けして子どものネコを探すことに決めた。
外はすっかり夜になっていた。
老ネコは子どものネコがよく行くという町の広場へ行くと言い、グラントのほうはさすがに町からは出ていないだろうが、一応、町の外周辺を探してみることに。
シエルのほうは、まだ町に来たばかりだったので、家の近くを見回るように指示を受けた。
すっかり暗くなった町中を歩きながら、シエルは思う。
陽が落ちても戻ってこないのには、何か子どものネコにあったからではないかと。
「そういえば、錬金術師が怪しいとか言っていたっけ……。たしか町外れだったよね? 行ってみるか……」
シエルは子どものネコの言っていたことを思い出し、町外れにあるという、錬金術師の家に向かうことにした。
幸いなことに、いかにも錬金術師が住んでいそうな家が町外れにあった。
名もなき町には不釣り合いな大きな館。
元々は廃墟だった館を買い取ったのだろうか?
外観は朽ち果てている。
だが屋根には煙突があり、妙な色の煙がそこから出ている。
話に聞いていた錬金術師の家は、たしかに一見して怪しいと感じる建物だった。
「誰か! 誰か助けて!」
シエルがドアをノックしようとした瞬間、館の中から、子どものネコの叫び声が聞こえてきた。
予想していた通りだと、シエルは持っていた竪琴でドアを突き破り、中へと侵入する。
奥へと走り、大広間へと入ると、そこには床にお尻をつけて怯える子どものネコと、身なりの良い髭の生えた男がいた。
「ちょっとあんた! その子に何するつもりだよ!?」
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