第0章 プロローグ

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第0章 プロローグ

乱世とは… 悲しみを(もたら)す時もあれば、 思いがけない縁を齎す時もあります。 曹香「…仲権様?一体何事ですか?」 いつも考えている事が一般的な人とは 違う人と生涯を共にしている場合、 毎日が予想外の展開ばかりでハラハラしてしまう事もあるけれど… 夏侯覇「俺に任せておけば大丈夫!」 予想外の展開も起きてしまえば、 案外しっくり来る事もあるものだと 最近は想い始めている曹香でした。 時は、西暦249年07月07日。 新しい屋敷は竹林が近くにあるので、 比較的涼しい夏を過ごしていた曹香。 水晶(シュェイジン)「奥様、お屋敷が綿竹関の近くなので涼しい場所で良かったですね。」 水晶(シュェイジン)…曹香と同い年で夏侯覇と曹香が祝言を挙げた頃からの付き合いである。   曹香「水晶、それは仲権様のお陰よ。あら?そう言えば…もうそろそろお帰りになられる頃ではないかしら?」 こちらの妙にウキウキしている女性が曹香…字は万姫(ワンチェン)です。 姓が曹と言うことは…言わずもがな、曹家の血筋を受け継ぐお姫様ではありますが箱入り娘ではなく…変わった配偶者?のお陰で刺激的な日々を過ごしてはいます。 水晶「奥様は本当に殿の事がお好きですね。お帰りの時刻が近づくとソワソワなさいますから…」 そんなお姫様がワクワクしながら 愛する夫を待っているのは… 曹魏の首都である…洛陽…でもなく…曹香が生まれ育った鄴城でもなく…何と…蜀漢の首都である成都に建てられた夏侯覇の屋敷だったのです。 曹香「今、私が生きていられるのは、 仲権様のお陰です。仲権様は私を守る為に前代未聞の行動をして下さったのですから…。」 水晶「…本当にお2人は相思相愛ですね?仕える立場と致しましては本当に微笑ましく嬉しい事でございます。」 何故… 曹魏のお姫様とお姫様の騎士(ナイト)が敵国であるはずの蜀漢の首都で暮らすようになったかと言うのにも 複雑な事情がありました。 それはさておき… 夏侯覇「お嬢!ただいま帰ったぞ! 伯約殿も一緒だ。」 夏侯覇(かこうは)…字は仲権。 西暦203年産まれで壮年と呼ばれるくらいの年齢にはなりましたが未だに昔の口癖が抜けず妻をお嬢と呼ぶ困った人でございました。 姜維「万姫殿、お邪魔します。」 そんな夏侯覇が最も愛する妻は、 曹操の孫娘で絶世の美女である曹香。 字は万姫(ワンチェン)。 曹香「仲権様、私はお嬢ではなく、 万姫(ワンチェン)です。字で呼ばない人はもう返事しませんよ。」 夏侯覇「そんなに拗ねないでくれ…。 分かったよ、万姫(ワンチェン)。」 基本的に夏侯覇と曹香の場合、 姜維が横にいてもいなくても こんな感じの会話になってしまうので すっかり蜀漢でも有名なおしどり夫婦となっておりました。 姜維(きょうい)…字は伯約。 天水の産まれで元は魏の武将として 曹真〈=曹操の甥〉に仕えていましたが冷遇されていた事と今は亡き諸葛亮にその才を見出されて蜀漢へ降伏するよう仕向けられました。 姜維「お2人は本当に仲が宜しいですね?羨ましい限りですよ。」 姜維は西暦202年産まれで夏侯覇より1つ上だからなのか…夏侯覇とは何だか気が合うようで、しょっちゅう夏侯覇の屋敷で宅飲みしておりました。 なので… 今ではすっかり曹香と夏侯覇の友と呼んでも何ら不思議ではない関係性となっておりました。 夏侯覇「しかし…伯約殿、遂にアイツと対戦する事になるなんて…。」 夏侯覇は血走っているのだろうかと思うくらい目をギラギラさせながら魏の方角を睨みつけておりました。 姜維「郭淮と何かありました?もしかして万姫殿を巡る争いでしょうか?」 姜維が郭淮の事を茶化すように 夏侯覇へ問い掛けると夏侯覇は何も言わないまま笑っておりました。 但し… 曹香「仲権様、目が据わっているのに作り笑いを浮かべていると恐いので、止めて頂いて宜しいですか?」 曹香が成都で夏侯覇の恐い笑顔に怯えているまさに同じ頃にはなりますが曹魏の首都である洛陽では… 郭淮「ハクション!誰ですか?私の悪口を言うのは…まさかのアイツですか?公主と結婚しながら魏を裏切り蜀漢に降るとは…!」 郭淮(かくわい)…字は伯済 夏侯覇とは昔から犬猿の仲でそれを案じた夏侯淵が郭淮を部下として自軍に従軍させておりましたが曹香の件でもひと悶着あったようでして…夏侯覇に対してこちらも怒り狂っていました。 王翦(おうせん)…字は雪玲 王翦「伯済様、私と言うものがおりながら…公主様の事をまだ忘れられないのでしょうか?」 郭淮の妻でその美貌は月も恥じらう程透き通る白い肌をしており曹香が絶世の美女であるならば国宝級の美女。 郭淮「雪玲は西征将軍の私に相応しき妻である。と、言うか勿体ない程の美女であると私は思う。」 王翦は王凌の妹で郭淮との間に 5人も子を産む程寵愛されていた。 夏侯覇「…そもそも親父が西征将軍だったのだから次の西征将軍は順番からすると俺だったのに…!」 夏侯覇も王翦を溺愛する郭淮同様 愛妻家ではあるのだが… 姜維「仲権殿、少しは静かにして貰えませんか?頭に響きます…。」 声のボリュームが大きすぎて ちょいちょいこんな感じで苦言を呈されるのが玉に瑕だった。 但し… 曹香「仲権様のお陰で私はいま、心の底から笑える日々を過ごしています。本当に幸せです。」 曹香からすれば夏侯覇は、 悲しすぎる運命から曹香を解き放った運命の人だった…。 姜維「…魏で何が遭ったのです? 西征将軍をしていた夏侯淵と言えば 大都督も間近だと噂されていた人物。そんな人の嫡男と曹操の孫娘が蜀漢に降伏した理由は?」 姜維から尋ねられた曹香は、 自身の母である甄貴に纏わる悲恋や 自身の生い立ちなどを話す事にした。 しかし… それは… あまりにも残酷で悲痛な戦国乱世が 産んだ闇そのものであった。
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