第1章 母の記憶。

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曹操「袁紹は極めて面倒な存在で… どちらが優れているかいずれ雌雄を決する日が訪れるであろうな…」 袁紹と曹操両陣営の緊張状態は 時が経つごとに悪化し続けており… 曹操の陣営では袁紹を攻めるべきか 否かの会議が行われておりました。 夏侯淵「袁紹如きが殿に勝てる事など 万に1つもありませぬ…」 曹操とは血の繋がりがある従弟の 夏侯淵…字は妙才がこのような意見を口にすると後漢帝国の文官は… 伏完「袁紹は四世三公、その家柄により 武将がたくさん集まっております。」 伏完(ふくかん)は、 献帝〈=劉協〉の皇后である伏寿… 字は春海(チュンハイ)の父親であり 後漢帝国の忠臣である優れた文官。 ちなみに… 四世三公というのは、 先祖代々4代に渡り後漢帝国最高位に就任していたという極めて由緒正しき家柄である。 しかし… 曹洪「家柄なんか関係ない、 俺達が家柄頼みの袁紹に負けるはずないと俺は思うぜ。殿ならば…勝てる!」 曹洪…字は子廉(しれん) 曹操とは血の繋がりのない従弟で、 基本的に血気盛んな性格をしている。 すると… 伏完の次なる手は… 伏完「許攸、田豊、文醜、顔良など 優秀な武将達がたくさん あちらの陣営におりまする…。」 後漢帝国の権威は地に落ちているものの文官というものはお金の事を考え… これでもかと言いたくなるくらいの 否定的な意見のオンパレードを出し 曹操軍の戦意を失わせるのが目的なのでどうやらまだまだ否定的な意見を 出すつもりのようでした。 すると…これには 曹操も根負けしそうになり… 曹操「加えて我が軍は兵力が袁紹の軍勢よりも極めて少ないとなれば…」 この話は伏完の勝利かと思いきや 文官である伏完よりも戦に詳しい人間が曹操に対し助け船を出しました。 それは… 荀彧「お待ち下さい、殿。 伏完殿の言葉と数のみで計算をしては敵わぬ事など必至でございます。」 曹操軍が誇る抜群の才智と、 抜群の判断力を持つ天才軍師である 荀彧…字は文若でした。 すると… 郭嘉「荀彧殿の言われる通りで… あちらは兵力だけに物を言わせる烏合の衆ですがこちらは…夏侯淵殿や曹洪殿を始めとする最強の武将がいらっしゃるのですから…」 郭嘉…字は奉孝(ほうこう)。 荀彧と同じく最初は袁紹に 仕えていましたが袁紹の全てを見限り曹操軍の軍師として働く事を決めた 自由とお酒と軍略を愛する策士ではあるのだが曹操からは…寵愛されている そのため… 曹操「荀彧と郭嘉が、 そのように言うならば戦うべきだな。」 夏侯淵「最強の武将か…。 子廉殿と俺なら最強コンビか!?」 曹洪「最強の戦士になりたいと願っていたので軍師殿のお陰様で今までの人生が報われた気が致します…。」 曹操軍の戦意は最高潮に達してしまい こうなると…伏完は手も足も出せず… 伏完「戦支度をするための 費用を計算致します。」 既に財政は火の車だというのに… 戦をするための費用を捻出する事に… しかし… 曹操「伏完、案ずる事はない。 短期決戦で袁紹に勝ってただでさえ少ない兵糧を無駄にしないよう全軍、力を尽くすつもりだ…」 それと… 関羽「(それがし)も丞相の為に力を尽くしたいと存ずる。」 劉備と張飛、2人の義兄弟と逸れた 関羽は劉備の妻である峰花(フォンファ)翠花(ツイファ)を庇護して貰う事を条件に曹操軍に従軍しておりました。 曹操「そうだった、今の儂には関羽を始めとする武将達が付き従ってくれているのに…袁紹など目ではないわ…」 こうして…曹操軍は伏完がやっとの 思いで捻出した兵糧を持って 官渡へ出陣する事になりました。 但し… 関羽は袁紹軍に劉備と張飛がいる事など知る由もありません…。 曹操『関羽には済まぬが劉備と張飛がこれによって袁紹に討たれたならば関羽はずっと我が軍に従軍する…はず』 曹操が心の中で呟いた言葉など 関羽は知るはずもなく… 関羽「顔良、文醜。 この関羽が討ち果たしてくれる。」   こうして袁紹軍でも最強の武勇を誇る顔良と文醜は関羽に討たれました。 審配「我が君、顔良と文醜が関羽により討たれました。関羽と言えばいま我が軍に従軍している劉備と張飛の義兄弟でございます。」 審配(しんぱい)…字は正南からの 報告を聞いた袁紹は怒髪天を衝き… 袁紹「劉備と張飛を呼べ。彼奴(あやつ)らは…絶対に許してやらぬ!」 審配「畏まりました、我が君…」 劉備と張飛は審配から呼び出されてしまい袁紹からの取り調べを受ける事になりました…。 劉備「私は関羽が曹操軍にいる事など知る由もありませんでした。袁紹殿が許して下さるならば関羽をこちらの陣営に呼び寄せましょう…。」 袁紹「関羽が来るなら顔良と文醜よりも優れた働きをしてくれるであろう…」 これには袁紹も大喜びでしたが、 戦は思わぬところでひっくり返るものでございます…。 許攸「沈みゆく泥船に乗っても金儲けは出来ぬし…これならば…いっそ…」 田豊のように才能溢れる軍師ですら 気に入らないと命を奪う袁紹。 金儲けだけが人生の全てだと考える 許攸は曹操軍に寝返る事を決め… 郭嘉「君が許攸殿?」 かつて同じ陣営にいた郭嘉を頼り 袁紹軍の兵糧庫の場所を告げました。 許攸「ここが兵糧庫、ここを失えば袁紹軍は兵糧を失い戦意を喪失します。」 郭嘉「良いね、ここを何とかすれば 袁紹軍の戦意を削ぐ事が出来るね。」 許攸「それは先程私が言いましたが…」 許攸の事が生理的にあまり好きではない郭嘉は許攸に対して終始冷たい態度を取り続けておりましたが…。 結果的には郭嘉により 兵糧庫は燃やされてしまい 袁紹軍の戦意は…完全喪失。 袁紹「この戯け共が…!」 2年に渡る戦への備えなどで 神経をか細くさせていた袁紹でしたが 裏切りに次ぐ裏切りにより曹操との決戦に負けたストレスが重なり… 西暦202年、跡継ぎも定まらないまま鄴城にて命を落としてしまいました。 劉軫「逝くなら跡継ぎを決めてから逝って下さりませ…殿ときたら全ての後始末を私に任せるのですから…!」 こうして…袁紹の長男であり2人とは母を異なる袁譚…字は顕思と三男である袁尚…字は顕甫との跡継ぎ争いが始まりました。 そんな最中の西暦204年05月21日。 甄貴「小龍様、懐妊しました。」 この日、久しぶりに、 袁熙が鄴城へ帰って来ましたが、 その顔は浮かないままでした。 愛しい袁熙の子を懐妊して 3ヶ月になる甄貴は幸せいっぱいの笑みを浮かべているのに… 袁熙「身体を大切にして 元気な子を産んでくれ…」 それだけ告げた袁熙は、 鄴城から幽州へと帰ってしまい… 甄貴「小龍様…どうしてですか?」 女性である甄貴は知りませんでしたが 袁家は官渡の戦いでの敗戦後、 更に厳しい状況へと追い込まれており 袁熙「今は妻と懐妊した喜びを分かち合っている場合ではない。」 袁譚と袁尚の間に挟まれた袁熙は、 胃がキリキリ痛んでおりました。 そんな事を甄貴が知るはずなく… それから甄貴と袁熙は逢えないまま… 運命の日を迎えてしまいました。 それから約4ヶ月が経った 西暦204年09月15日。 甄貴は7ヶ月を迎えた大きなお腹を優しく撫でながらも不安で潰れてしまいそうになっていました…。 何故なら… 曹操「甄貴を捕らえて 我が前に連れて来るのだ…。」 この日の早朝から袁尚が当主を務める 鄴城は蟻一匹も通り抜け出来ない程 曹操軍により囲まれていたからです。 甄貴「小龍様…」 甄貴はお腹の中に宿る最愛の人との間に出来た愛の結晶を優しく撫でながら 遠い場所に住まう最愛の人に想いを馳せていました。 すると… 曹丕「…お前は誰だ?」 見るからに甄貴よりも年下そうな雰囲気を醸し出している存在感のある若武者が鄴城の内部へ乗り込んで来たかと思いきや… 劉軫「私は先代の当主である袁紹の妻で蓮花(リェンファ)と申す者です。」 明らかに甄貴への質問であるとその場にいる皆が思っているというのに… 曹丕「父と同い年の女に興味はない。 そなたではなく…腹の大きな女に聞いているのだが…」 劉軫「…腹の大きな女は私の次男である袁熙に嫁いでいる甄桜綾と申します。」 曹丕からの言葉に劉軫は顔面蒼白状態になりながらも代わりに答えました。 曹丕「ならば…我が妻に迎えてやる。 だから…その腹にいる忌まわしい子を金輪際私に見せるでない。」 曹丕は甄貴の腹の中に宿る子が 袁熙との間に出来た子だと思うと 溺愛を越えるくらいの執着心を感じ… 理性が極端に低下してしまいました。 劉軫「我らは…桜綾の身柄と引き換えに解放して頂けますね?」 劉軫は甄貴の美貌に嫉妬していた事もあり袁熙には申し訳ないと脳裏の片隅では思いながらも解放して欲しいと曹丕に対して願い出ました。 すると… 曹丕「父と同い年の女になぞ興味はないので幽州だろうとどこだろうと行け。」 こうして甄貴の身柄と引き換えに 袁尚と劉軫は曹操軍から解放され… 2人は袁熙の元へと向かいました…。 甄貴『私も小龍様の元へ帰りたいのにどうしてこんな事になるの?』 甄貴は去りゆく2人の背を見つめながら遠ざかっていく愛しき袁熙の事を思い返しておりました。 甄貴『小龍様。』 西暦204年12月25日。 甄貴が曹丕の妻に迎えられて 3ヶ月後経った冬の寒さ厳しき日。 単身赴任をしていた袁熙ですら 何かある度に顔を出していたのに… 曹丕は顔を出すのはおろか文の1つも寄越そうとしないどころか甄貴を鄴城にて幽閉していたのでございます。 甄貴「これでは私はまるで宝飾品のようショーケースに飾られた人形かしら?」 そんな甄貴は鄴城にて最愛の元夫である袁熙との間に宿りし子を産み… 甄貴「3ヶ月で世の中は変わるのね…3ヶ月前までは袁家の旗が所狭しと飾られていたのに…今では…」 所狭しと飾られているのは、 曹家の旗で袁家の旗どころか… 秀鈴「若奥様、 この部屋片付けますね。」 袁熙が過ごしていた記憶すら 綺麗に消されている鄴城でした。 曹丕「忌み子が産まれただと…? 私の正妻でありながら…」 許都にある自身の屋敷で妾であり 曹仁の娘である曹魅音を抱きしめながら曹丕は怒りに燃えていました…。 曹魅音「殿、私がおりながら… 正妻の事をお考えになられるなんて…」 (ソウ)魅音(ミオン) 曹操の従兄で曹仁の娘になるのだが、 曹操の父親である曹嵩の養父である曹騰の弟の孫である為血は繫がってない 曹丕「仕方あるまい、そなたと私は血縁上は親戚関係ではないが書類上では親戚関係となるため正妻には迎えられず妾とするより他ないのだ…」   曹丕はそのまま1度も鄴城へ行こうとはせず甄貴と袁熙の間に産まれた息子が3歳になった西暦207年09月09日。 袁熙と袁尚は公孫康を頼りにしましたが曹操の影に怯える公孫康からするとこれがまた迷惑なお話で… 公孫康「曹操から怨まれると後が大変なので…済まぬがここらで潮時と言うのはダメだろうか?」 兄弟が休んでいる隙を突き、 だまし討ちを仕掛けたのでした。   しかし… 甘えんぼうで頼りない末っ子の袁尚は この期に及んでも情けない姿を晒しておりました…。 袁尚「嫌だ、兄上、 俺はまだ死にたくない!」 そんな無様な姿を晒す弟に対して 袁熙は優しく諭しました。 袁熙「名門袁家の男児ならば覚悟を決めて最期を迎えなければならぬ…」 こうして袁熙と袁尚は… 袁熙『桜綾、我が子よ。すまぬ。 助ける事は叶わなかったけれど もし生まれ変わる事が出来たなら その時はまた出逢いたい…。』 公孫康により討たれてしまい… 曹操の元へその証が届けられました。 すると… 曹丕「父よ、申し訳ありませんがその証しばしの間、借り受けさせて頂く…」 曹操からの返事も聞かず曹丕は、 その証を持ち鄴城へと向かいました。 甄貴「3年も私の前に現れず他の女を可愛がられておられたのですか?」 甄貴が嫌味を言うとすぐ曹丕は、 その証を甄貴の前に出しました。 甄貴「小龍様、顕甫様。」 それは袁尚と袁熙の(もとどり)で 彼らがこの世にはもう居ない事を甄貴に知らせるのには十分過ぎる程で… 甄貴「私が小龍様の事を未だに希っている事を知りながら…なんと酷い事を…」 甄貴は大きな瞳から大粒の涙を流し… 最愛の人の死を悼みました。 曹丕「忌み子を産んだかと思えば… 次は元夫であり今は亡き者を希い涙を流すなど…これは私に対する裏切りだ」 曹丕は怒りの感情にその身を任せ 鄴城を飛び出すとそのまま鄴城へは 足を伸ばそうとしませんでした。 しかし… 西暦211年01月01日。 跡継ぎの事もあり曹丕は、 渋々ながらもまた鄴城を尋ねました。 甄貴「また…何用ですか?」   甄貴が嫌そうな顔をしながら曹丕に対して対応をすると曹丕はまたもや怒りの感情にその身を任せると… 甄貴「何をなさるのです?」 甄貴に対して無理矢理 自らの想いを遂げたのでございます。 曹丕「正妻ならば役目を果たせ。 子を為し跡継ぎを作るのが役目だ。」 曹丕はそのような理不尽な言葉を口にするとそれから長きに渡り鄴城を訪れようとはしませんでした。
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