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4.悪役令嬢としての矜持。
「リティカ、どういうつもりだ」
久方ぶりにお会いしたお兄様は開口一番に私に苦言を呈した。
「どう、とは? それでは何をお尋ねになりたいのか分かりませんわ」
私はわざとらしく肩をすくめて、優雅に紅茶を口にする。
悪役令嬢たるもの、どんな時でも冷静でなくては。
内心、超びびってるけどね。気を張ってないとカップを持つ手がカタカタ震えて紅茶溢しそうなんだけど。
だって、お兄様の睨み方ハンパないし。さすが悪役令嬢の兄。目つき悪っ。
とはいえまぁそこは流石攻略対象。お兄様の場合は、目力強いだけで王子とはまた違ったタイプのクール系なイケメンなんだけど。
「今度は父上に頼んで魔法省への出入りの許可だと? 一体何を企んでいる」
うん、分かるよー。お怒りですね、お兄様。
今までリティカのワガママに付き合ってきてるし、リティカの癇癪間近で見てるし、リティカ飽き性だし。
まぁ、ある意味お兄様が一番のリティカ被害者かもしれませんね。
うん、ごめん。でもあまり睨まないで欲しい。心臓バクバクし過ぎて逃走しそうだわ。
「存じております。私はただ魔法を学びたいのです。魔法省ほど打ってつけの場所はありませんでしょう?」
そんな心情を表に出さず、私は淡々とした口調で答える。
がんばれ、私。今こそ悪役令嬢っぽい傲慢さが求められる時ですわと自分を鼓舞する。
「あそこは子どもの遊び場じゃないんだ」
それな。お怒りはごもっとも。だってあそこは家庭に居場所がないお兄様にとって大事な場所。
でもさぁ、リティカを子ども扱いするけども、言うてお兄様もまだ11歳じゃん。
何なら前世を思い出して精神年齢成人オーバーしてる私の方が中身年上ですけどね。
だから11歳児相手にビビるな私。と自分を叱咤激励し、悪役令嬢らしく背筋を伸ばす。
「理解しております。そして、メルティー公爵家の令嬢である私が立ち入る事に、一体何の問題がありましょうか?」
私は空色の瞳を瞬かせ、さも当然のように言い放つ。
メルティー公爵家はもともと魔術師の名家だ。そしてそれを束ねるお父様は魔法省のトップ。メルティー公爵家に連なる人間で、才を見出された者は幼少期からここで魔法を学ぶことが多い。
つまり、魔力適性があり才能さえあれば子どもが魔法省に立ち入って悪いということはないのだ。
現にメルティー公爵家嫡男であるお兄様はすでに魔法省で魔術師見習いとして研鑽している。もっとも、お兄様は私と違って誰に教わるでもなく、初等部に上がるより早くに魔力を発現させた天才ではあるけれど。
「私は真剣です。公爵令嬢として、将来を見据えてできる事を一つでも増やしたいのです」
そう言った私に冷たい視線を寄越したお兄様は悔しそうにぎりりと奥歯を噛み締める。でも、それだけのこと。
メルティー公爵家の人間で、魔力適性があり、お父様が許可した以上、魔法を学びたいという私の希望に一介の魔術師見習いに過ぎないお兄様が異を唱えることはできないはずだ。
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