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「どうせ、すぐ飽きる癖に」
捨て台詞のようにそう吐き捨てたお兄様はくるりと踵を返す。
私にはお兄様からの信用が全くないのだと悟る。
今までが今までだ。無理もない。ゲームでリティカが断罪された時、その場にいたはずのお兄様がリティカを庇う事はなかった。
つまり、そういう関係なのだ。私とお兄様は。
「では、賭けませんか? お兄様」
部屋から出て行こうとするお兄様の背中に私は真面目な声で話しかける。
「賭け、だと?」
お兄様は振り返ることなく、不快そうな声を上げた。
返事があるだけでも僥倖……というかクールビューティーで売ってるはずなのにお兄様感情をあからさまに出し過ぎではありません?
うーん、本編開始までには改善の余地ありですわね。メモメモ、と心に刻んだところで私は悪役令嬢っぽく口角を上げる。
「確かに私はお父様におねだりして魔法省入りを許可されました。ですが、メルティー公爵家の令嬢だからといって私に手心を加える必要はありません」
最高の悪役令嬢を目指している私には魔法省に出入りする目標と目的があるのだ。
ライラちゃんだって、きっと今頃この世界のどこかで頑張っているのだろうし、ヒロインを成長させるライバルたる私がこんなところで音を上げるわけにはいかない。
「魔法省を出入りするに値するだけの功績。1年以内にあげられなければ、お兄様のお望み通り2度と魔法省に足を踏み入れませんわ」
これは私が悪役令嬢になるための試練。
そしてお兄様ルートを潰す策でもある。
「どうぞ、その目で私を見極めてください。飽きるかどうか。指導者にどなたをつけてくださっても構いませんわ。喰らいつきますので」
悪役令嬢たるもの、こんなところでへこたれたりしませんの。
私にだって悪役令嬢としての矜持があるのですから。
「はっ、それは見ものだな。そもそも1年持つかどうか分からんが、その言葉忘れるなよ」
「ええ、勿論」
ふふっと笑みを漏らす私にそう冷たく言い放ち、お兄様は出ていった。
完全にお兄様の足音が聞こえなくなってから、盛大に私は息を吐きだす。
「ふーっ、やっば、マジ怖いんですけど!?」
いけないわ。私ったらついうっかり前世の口調が出てしまった。
まぁ、よし。私、気迫でお兄様に負けなかったわ。
ヒロインにお兄様ルートに行って欲しくない、というのは勿論あるのですけれど。
「私断罪される予定だし、別に味方になってくれとは言いませんけど。もう少し、仲良くできないものかしら?」
冷え切った兄妹関係。接点を持った事で少しは改善するといいのだけど。
何はともあれとりあえず、私は前世を思い出してからのお兄様とのファーストコンタクトを無事終えたのだった。
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