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「私の娘でしたら、この程度で音をあげたり致しませんわ」
そして、ちょいちょい娘自慢。確かヴァレンティ侯爵家のお嬢様は私と同い年だったはず。当然、ロア様の婚約者候補に名前があがっていた。まぁ、それを公爵家の力でねじ伏せたわけなんだけど。
「全く、これが未来の国母だなんて、嘆かわしい」
ほぅ、つまるところ本当は自分の娘の方が第一王子の婚約者にふさわしいと。
家格ではうちに敵わないし、公爵令嬢を貶める事なんて、こんな機会でもなければ、できるわけがないわよね。
まぁ私も今までは素直なお子ちゃまでしたし、私が悪いとその通り受け入れていたのだけれど。
「申し訳ございませんわ、先生。理解力が乏しくて」
私は泣き叫ぶこともなく、癇癪も起こさず、涼しげな顔で侯爵夫人の暴言を流して差し上げる。
いつもなら、私が下を向きぽろぽろと泣いていたところだけど、私がにこっと笑ってみせたことで侯爵夫人がたじろぐ。
どうせわがままなお嬢様の"できない"を積み重ねて、私が王太子妃にはふさわしくないと外堀を埋めようとしているのでしょうけれど。
残念ね。この席は、いずれあなたの娘ではなく、この世界のヒロイン聖女ライラちゃんのものになるのですよ。
だからそれまで、誰かにここを譲ってやるわけにはいかない。だってここは悪役令嬢ポジションなのだから。
「ご指摘通りだと思います。精進いたしますわ」
殊勝な言葉とは裏腹に、私は悪役令嬢っぽい生意気な笑顔を浮かべて見せる。
「……なんて、生意気な目」
「いやですわ、先生ったら。私のこの目は生まれつきですわ」
うん、こんなの毎回やってたらリティカの性格歪むわ。あー胃がキリキリする。
まぁ、でもいずれ私は悪役令嬢としてライラちゃんをいじめなくてはいけないわけだし、問題だらけの先生のやり口を学んで嫌味のバリエーションを増やすのはアリかもしれない。
勉強的なところでは、お父様にお願いして優秀な家庭教師をつけてもらえば問題はないのだし。
「これからもご指導よろしくお願いいたしますね、先生?」
とりあえずまずはこの侯爵夫人を超えてギャフンと言わせて黙らせる。それが自力でできなければ、最高の悪役令嬢なんて夢のまた夢ね。
「ああ、次はマナーレッスンですね。引き継ぎどうぞ?」
こんなところでつまづいてやるものかと私はたじろぐ先生を前に、不敵な笑みを浮かべる。
弱い相手の効率的ないじめ方について学ぶため、私はもうしばらくこのまま侯爵夫人のレッスンを受けることに決めた。
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