1.悪役令嬢は思い出す。

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1.悪役令嬢は思い出す。

 素敵な午後の昼下がり。それは、唐突に訪れた。 『リティカ・メルティー公爵令嬢。今この時を以ってお前との婚約を破棄する』  耳で拾った言葉の意味を咀嚼し、パチパチっと(わたくし)は目を瞬かせる。  高らかとそう宣言したのは、私の婚約者であるロア・ディ・クレティア様。このクレティア王国の王太子殿下だ。  シャンデリアの下でキラキラと金色に輝く艶やかな髪と宝石のような藍色の瞳。絵に描いたような王子様が隣に侍らせているのは、ふわりと揺れる青緑色の髪に翡翠の目を持つ神に愛された聖女様。 『待って、ロア様!! 私はっ』 「……ティー! リティー!!」  その声に引き戻されて、私は我に返る。 「どうしたの? リティー。顔が真っ青だよ」  心配そうにコチラを覗き込む藍色の瞳と目が合う。  太陽の下でキラキラと輝く金色の髪を持つ齢9つの王子様。 「占いの結果、良くなかったの?」 「うら……ない?」  ああ、そうだったと私は妙にリアルな白昼夢を見た経緯を思い出す。  私は婚約者であるロア様と一緒に親睦を深めるための定例のお茶会をしていたのだ。そして、興味本位で習いたての魔法を使って占いをしたのだけど。 「リティカ?」 「……ロア様。わたくしの……今ここにいる(・・・・・・)私の名前、は?」 「え? リティカ・メルティー公爵令嬢だよ。私の可愛い婚約者、の」  照れたようにはにかんで笑いそう言う金髪碧眼美少年を前に私の胸にハートの矢がトスっとブッ刺さる。  いや、例えなのですけれど。  実際刺さっちゃったら大惨事なのですけれど。  私は声を大にして叫びたい。  私の婚約者様、可愛い過ぎじゃなかろうか!? と。 「どうしたの? リティー」  小首をかしげるその動作にやられた私は、きゅんとなった胸を抑える。さっきまで確かに世界で1番かっこいいと思っていた、私の王子様。  だけど、全部思い出してしまった今、私が彼に対して思うことは一つだけ。 「なんでこんな儚げな可愛い美少年がっ、公衆の面前でやらかす、ド阿呆に成り果てるのよ!! えーほんとなんなの? 何の罰!? マジで信じられないっ!!」  興味本位で標準スペックバリ高王子の魔力を使って占いなんてするんじゃなかった。  そのせいで、私の世界が180度どころか、360度回転してしまった。いや待て、落ち着け自分。360度だったら、元に戻っちゃうから!! 「……リティカ? 本当にどうしたの?」  そう言って、私を呼ぶ声がする。視線を向ければ、心配そうに藍色の目を陰らせたロア様の姿が目に入る。 「……ロア様」  私を心配する藍色の瞳。それを見ていると、胸に迫るものがある。  そう、ここにいる9歳のロア様は悪くない。悪いのは全て、あんなシナリオを書いた運営(神様)だーーーー!!  私はがしっとロア様の手を握りしめる。 「ロア様! 安心してください。ロア様の事は、必ず私がお守りいたしますので」  私はそう宣言すると淑女らしくカーテシーを行い、 「そんなわけで。私、とーっても忙しいので本日のところはこれでお暇いたしますわ」  疑問符いっぱいのロア様を置き去りにして、お茶会を強制終了させた。
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