花燭(六)※過激表現あり

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花燭(六)※過激表現あり

 口付けを交わしながら器用にも脱がされた寝衣は、二人の下で敷布と化していた。 「煌龍様、上等なものですから、掛けておいた方が良いのでは……」  熱に当てられた青藍は、感冒(かんぼう)にでも罹ったような顔をして生真面目に意見する。愛撫の手を止めない王は、寝台を汚さずに済むので都合が良いと、先程より幾分熱っぽい表情で答えた。何故汚れるのかと疑問に思うも、返答を怖れて訊くことが出来ない。  真白で質の良い、(くるぶし)まで丈がある薄手の肌着。布の上を柔らかく這う手指に、青藍の体は当人の意思とは無関係に震えた。顔を背けて未知の感覚に耐える、その首筋に軽く歯を立てられて得体の知れない感覚が込み上げる。 「やはり美しい……」  肌着の前を開いた王は感嘆の声を漏らした。短く単純な言葉が却って感動を表している気がして、青藍は酷く面映ゆかった。  緊張と興奮からやや速く微動する胸腹は、寒月の如く青白い。肌質は瑞々しく磁器の様で、上等の絹布よりも手に馴染む。  青藍の目には、普段より(くつろ)げた衿元から覗く己より数倍隆起のある胸板の方が余程魅力的に映ったが、口にする余裕はなく静かに目を逸らした。  相手の動きから目を離した丁度その時、熱を持った掌が薄い胸の中程にそっと宛がわれ、大袈裟に体が跳ねる。  (かね)てより目を奪われていたという、寵愛する側妃の素肌に漸く触れる事が叶った王は、感慨深げにその温もりと感触を確かめると、置いていた手を右へと滑らせた。  容易に掌へ納まってしまう申し訳程度の白い膨らみ。如何にか揉むことが出来る程に慎ましいそれは、女性らしい豊満さとは対極にある。これまでに同衾したどの女より小さく薄く物足りなさを感じる筈の隆起を、王は酷く丁寧な手つきで愛でた。  淡く色付いた乳暈(にゅううん)にある米粒並みに小さな突起は、与えられた刺激によって健気にも硬さを増し立ち上がっている。全体の感触を楽しんだ王は、控えめに存在を主張する乳頭を親指の腹で潰し、摘まんだ指を擦り合わせて青藍の反応を見た。  無垢な器官は快感よりもむず痒さを拾うが、秘め事を行っている実感に肌が汗ばむ。  意図を持って触れられる事で、二十年の長きに亘り希薄であった存在を突如として認めさせられ、青藍は大いに戸惑った。左も同様に刺激した王は、弄んだ胸の尖りを労わるかのように形の良い唇で挟む。  口を使って施される愛撫に青藍は吃驚した。恐る恐る視線を胸元へやれば、このような時でさえ端正さを失っていない男が、片手で左を捏ねながら右の胸に舌を這わせている。堪らなく気恥ずかしくなって、青藍は尻の下にある寝衣をきつく握り締めた。 「あっ、あの、灯りはこのままですか」  平素より灯りが増やされた室内は、煌々として昼間のように明るい。  このままでは醜態も陰部も情欲を宿した黒曜の瞳にはっきり視認されてしまうと思い、それまで無意味な鼻声を出すのみであった青藍は慌てて言う。 「流石に俺も半陰陽を相手にするのは初めてだ。ましてお前は自涜の経験さえないのだろう……? 反応を見ながら慎重に事を進めたいと考えているが、視界が悪くては苦痛に気付いてやる事が出来ない」  より一層(つや)やかになった胸先から口を離すと、王は苦笑して言った。それならば仕方ないと納得する青藍へ、身を乗り出した偉丈夫は蠱惑的な笑みを浮かべて言う。 「まぁ、それも嘘偽りのない真意だが、愛しい少婦の初交を(くま)なく見届けたいというのがもう一つの本音だ。我ながら、一体情けが有るものか如何か分からんな」  艶っぽい低声を正面からまともに食らった青藍は、息を呑んで眉目(みめ)の優れた顔を見つめ返すことしか出来なかった。  眼前にある締まりの良い理想的な形の唇。この美しい唇が先程まで己の貧相な胸に寄せられていたのだと思うと、腹底からぞくりと背徳感が生じ、青藍は苛められて泣く寸前のような顔になった。  精悍な(おもて)が迫り、唇が触れ合う。深い口付けを交わしていると、時折一人だけ甘えたような声が漏れるので、青藍は羞恥に眉を(ひそ)めた。  広い掌が絶妙な力加減で腿や付け根の辺りを撫で、やがて裾の隙間から中へ侵入しようとする。  青藍は殆ど閉じていた目を見開くと、咄嗟に厚い胸を押し返していた。軟弱な抵抗にびくともしなかった相手は、それでも侵入の手を止めて、代わりに強張った頬を一撫でする。  長期に亘り節欲を強いていた分、従順にこの体を差し出そうと思っていたのに……青藍はこの期に及んで貞潔を貫こうとする己の行動に驚き呆れつつ、申し訳なさに動揺した。   「済まない、気が()いた」  少しも急いてなどいない。青藍は慌てて首を横に振った。 「いえ、違うのです……! ええと、あの、私、自分で脱ごうと思って……! だから……一度、上から降りていただけますか」  抵抗を誤魔化すための唐突な脱衣の意思表示。何か感じ取っている筈の王は素直に応じ、青藍の上からその引き締まった巨躯を退けた。  半身を起こした青藍は、衿元を掻き合わせて軽く寝衣を直しつつ、膝を崩してへたり込むように座る。  見られている__鼓動が速過ぎて胸が壊れてしまいそうだと思った。下手に取り繕った己を恨む青藍であったが、この調子ではその内に灯りが尽きてしまうと覚悟を決めた。  帯も寝衣も既に取り払われた今、残りは腰の結び紐を解くのみである。  震える手で腰の脇に手をやり、美しい蝶結びを崩した。羞恥に下向いたまま、胸や腹を見せ、細腕を抜く。少年の様な体つきの上半身が完全に露わになる。  暫しの逡巡の後、青藍は無自覚の内に煽情的な顔をして、最後まで下半身を隠していた衣を三つ指で摘まんだ。ゆっくりと開き、正面で見つめる良人へ一糸も纏わぬ裸身を曝す。  幼少期から現在に至るまで頑なに隠してきた、この先も隠し通す積もりでいた陰部を、愛人に(あらた)められようとしている。閉じた股の中心を片手で覆い隠し、哀れなほど顔を赤くした青藍。無言で見守っていた王が助け舟を出す。 「青藍、ここまで良く心を奮い立たせてくれた……その先を目にし、触れる事をこの果報者に許してくれるか」  縋るように頷くと、玉膚が手に心地良い背中を支えられながら、ゆっくりと押し倒された。寝台に広がる美しい黒髪。  立てた両膝をぴたりと付けていた青藍であったが、腿の間に手を差し込まれ軽く外側へ力を入れられると、小さく体を震わせてそろそろと股を開いていく。
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