花燭(七)※過激表現あり

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花燭(七)※過激表現あり

 寝台の上、仰向けで膝を立て股を開いた裸体の青藍と、その中心を静かに見下ろす寝衣姿の偉丈夫。  二人の間に暫し無言の時が流れた。実際に股座(またぐら)を目にした反応を待つ緊張と、血汐が沸騰しそうな程の羞恥で、早鐘を打つ青藍の胸は破裂寸前である。  王は貴重な史書でも解読しているかの如き顔つきをして、薄らと毛の生えた恥丘の下でくたりとしている陽物を凝視し、更にその下、ぴたりと閉じている股の(あわい)へと視線を向けた。  愛戯に際して陰部を曝すのは青藍にとって初めての体験である。心底から興味深そうに注がれる強い視線によって実際に陰部へ触れられているような心持がして、はしたなく開いた股を幾度も閉じてしまいたくなった。  永遠にも思える時間に耐えられず、背けていた顔をおずおずと正面へ向けた青藍は、股座から漸く目を離した王に無言で所感を訊いた。王は表情を和らげて言う。 「綺麗なものだ。想像していたよりずっと自然で美しい(なり)をしていて……お前は俺に見られる事を酷く怖れていたようだが、全く無用の心配だったな……触れるぞ」  許しを得た王は、自身の親指より数分長いだけの物を、嬰児(えいじ)に接するかのように優しく握った。成人の陽物にしては幼い色形をしており、醜悪さとは無縁である青藍の男性は、大きな手に隠れてすっかり見えなくなる。  殆ど凹凸のない陰茎に三つ指を添えた王は、手淫に似た動きで弱く(こす)り、先端を刺激して反応を見た。しかし、時間を掛け弄られても青藍のそこは硬直とは程遠い有様であった。  どうして交合と無関係な部位に触れるのだろうと不思議に思っていると、丁寧に愛撫されていた陽物が解放される。手慣れた動きで細腰の下に枕を差し込んだ王は、もう一つの器官へと手を伸ばした。  貞潔を絵に描いたような、やはり年齢と不釣り合いにあどけなさの残る秘所は、初交を目前に控えていることなど理解していない様子でそこに在る。入り口を軽く割り開かれ、男性美が行き届いた指先を挿入された。 「っ……」  思わず顔を顰めた青藍であったが、違和感はあれど痛みは感じず安堵する。  ごく浅い場所で慎重に動く長い指。実際の経験はおろか淫画すら目にした事のない青藍でさえ、手練(しゅれん)を感じる程の巧みな指使いであった。  その内に、渇いていた秘所が指の動きに合わせてくちくちと水気を帯びた音を立て始める。無音の寝処に響く小さな音は、聴覚の優れた青藍を酷く赤面させた。  入念に秘所を慣らされた青藍は、微かな快感と、はしたなく股を開いて他人に恥部を委ねている羞恥、未知の器官を弄られる緊張で息も絶え絶えになっていた。  股の間から静かに指を引き抜いた王は、本格的な前戯に耐えた青藍を労うように滑らかな内腿を撫で(さす)る。現時点で二つの性器より余程敏感な内腿への愛撫に、青藍は小さく甘えたような声を漏らした。 「やはり今はまだ、直接陰部を刺激されるより、この辺りに按摩の真似事を施されている方が好いらしい。暫くこうしていよう」  自身でも知り得なかった弱点に気付かされ、じわじわと性的興奮を引き出されている感覚があった。内腿から鼠径部、骨盤に下腹部と絶妙な力加減で指圧され、時折胸先などに触れられる。青藍は徐々に声の漏れ出る頻度が高くなり、気恥ずかしさに唇を引き結んだ。 「んっ……」  特に感覚が鋭敏な鼠径部付近。強弱をつけて丁寧に擦り揉まれている内に、青藍の体は無意識に弛緩していく。立てている膝の高さも、当初に比べ随分と低くなっていた。  白く華奢な体の上へ身を乗り出した王は、緩んだ口元に唇を寄せ、口内に侵入した舌で青藍の舌を絡め取った。そのまま首筋、胸、腹と新肌(あらはだ)の感触を唇と舌を使って確かめていき、色艶の良い唇はついに下腹部へと到達する。 「ひぁっ……!」  水蜜桃の如き淡い色合いの亀頭を少しの躊躇いもなく口に含まれ、青藍は大いに狼狽した。咄嗟に足を閉じようとして、細身ながら柔らかく滑らかな内腿で王の頭を挟み込む。その感触に驚いて大股を開き、また慌てた。 「急に何を、あっ、いや、本当に汚いからっ……!」  腹の力を使って跳ね起きた青藍は無礼も打ち忘れて、口淫を止めない良人の頭を両の手で掴んだ。引き離そうとするも生温い口腔内で陰茎を弄ばれる感覚に力が入らず、一つに括られた美しい黒髪を(いたずら)に乱すだけであった。股座に顔を埋める王が、ちらりと目線を上げた。興奮を含んだ艶なる眼差しに、青藍は忽ち当てられる。 「慌てることはない、ごく一般的に行われている前戯だ。特殊な嗜好ではないから安心してくれ」  漸く小振りな陽物を解放した王は、呑気に腹の筋力を褒めた後で誤解を解いた。実地で知ることとなった驚愕の常識に、青藍は頭がくらくらとする。 「その上で不快だと言うのなら二度としないが、如何(どう)だった」 「えぇ……? その……温かくて、何だか妙な感じがしましたけど、気持ちはよかったです……でも、お嫌ではないですか。煌龍様は普段奉仕をされる側なのでしょう? お気遣いいただかなくて結構なので、ただ挿入していた、んっ 煌龍様っ」  先端を覆う皮を剥かれて敏感な部分をぐりぐりと弄ばれた。青藍は弱弱しい非難の声を上げる。 「青藍、俺は何も無理してお前の陽物に触れている訳ではない。お前の陰陽どちらも(ないがし)ろにせず愛したいのだ。後宮に迎えた手前、昼は女として扱わざるを得ないのだから、今くらいは全てを可愛がらせてくれ」  青藍は見開いた目をぱちぱちと瞬かせた。  未だに男であった時の名で己を呼び、華やかな衣装を強制する事もない。実際に両性を目にしても、不気味がらずに愛したいと言う。青藍は改めて善い人に見初められたことだと思った。  しみじみと感じ入る青藍の唇に軽く口付けをして、その体を再び押し倒した王は、漸く自身の帯に手をかけた。がっしりと引き締まった腰回りからするりと帯が解ける。  寝衣の下から現れた筋骨逞しい体を、青藍は食い入るように見つめた。張りのある健康的な肌に、余すところなく鍛え上げられた全身。厚く隆起した胸も左右均等に割れた腹の筋肉も、状況を忘れて見惚れる程に美しい。  言葉まで忘れて見入る青藍の前で、ついに下穿きが取り払われる。何故このような動作も魅力的に映るのだろうと呆けていた青藍は、布の下から現れ出た物を見て、密かに沸き立っていた血が一瞬で凍て付くのを感じた。 「あ……え……」  怯えた目には一尺にも見えてしまう、凶悪ささえ感じる男性器。広い寝台の上、青藍は恐ろしさに身が竦むも何故か目を離すことが出来なかった。 「普通、殿方はこうなのですか……?」  明らかに怯えを含んだ声色で言う青藍に、王は苦笑した。己の物とは大きさも然ることながら、何より形状が違う。生々しい色をしていて、血管が幾筋も浮き、先端の傘が大きく張っていて……何よりも、硬く屹立している状態が青藍を驚かせた。  当然のこと、血の巡りが良くなった男性を目にするのは初めての事である。最早全く異なる物体のようで、見比べて恥じ入ることもない。 「長躯ゆえ人より少々長大やもしれんな……他人の物を見たことは」 「ありません……これ、上向いているのは、入れやすいように……?」  畏怖の念を抱きつつ目を離せないままで青藍は訊いた。 「はは、そうだな。刺激を与えたり興奮するとこうなる。お前の物も、普段よりやや芯を持っているだろう?」  根気強い愛撫によって、青藍の陽物は立ち上がるまではしていないものの、平素より少々硬くなっていた。青藍は申し訳なさそうに眉を落とす。 「でも、あんなに色々……していただいたのに、僅かに芯を持っただけです……自分の体に洗浄以外の目的で触れたことがないので、なんというか、その、人より感度が鈍いのかもしれません……私にとって陰部は忌むべき場所で、交合は遠ざけるべき行為だったので……」 「初々しい体が淫楽を享受出来ずとも何ら不思議ではないが、お前の場合、心因の影響も強いのだろう。二十年を一夜で覆すのは難しい。何、焦らずとも時間はこの先幾らでもある。お前が__」  青藍に覆い被さった王は、赤くなった耳に唇を寄せ甘美な低声で囁いた。
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