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 僕達は多分、心臓が見えない何かで繋がっている。  気付いたのは病室でほぼ同時に心臓の痛みを看護師に訴えた時だった。直感というか感覚というか、もう運命だと思うしか無かった。命を共有してるなんて誰も信じてくれる訳無いけど、僕達だけは密かに分かっていた。  同じ物を見て心が安らいだり痛んだりした。  自分の心臓に手を当てて鼓動を確かめるだけで、相手が思っている事が朧気に分かった。  彼女はもうどうやら長くない様で、鼓動が時折弱まっては僕の呼吸を阻害してきた。僕はそれに文句を言おうかと間仕切りカーテンを開けては、言っても何にもならないからと踏みとどまって世間話をした。多分心臓のせいで心情に気付かれていたとは思うけど、彼女は優しく黙っていてくれた。  僕達は未来の話はしなかった。病のせいで萎れた脳味噌が希望を拒んでしまって、心が疲れ果ててしまっていた。代わりに今日出てくる食事と、過去にあった思い出を互いに話した。  夜になると僕達はベッドの中で泣いた。  そんな気分じゃなくても片方が泣けばその痛みが心臓を通して伝わって来て、否応無しに傷ついてしまう。でもそれは嫌な涙ではなくて、食事の様な、生きる為には必ずしなければならない儀式の様な物で、彼女が泣いてもそれを責める気にはなれなかった。  人は忘れる。忘れた事すら忘れて生きていく。  僕にかつていた友達も、彼女の友達も誰も面会には来なかった。悲しかったけど泣けば相手に迷惑がかかるので必死に押しとどめた。心に平穏を与える為の安易なお呪いを三回唱えて、頭の中を空っぽにした。  皆が学校で蜂蜜を舐めている間に、僕達は薬を服用して副作用に苦しむ。苦しみはいつまで経っても慣れない。人は慣れないと軽率に死にたくなる。  何で生きてるのだろう、と思った。
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